港のひと 008 抄

 

「帯を捨てよ、書物の姿とは何か。」

上野勇治

 港の人は鎌倉・由比ケ浜通りの長谷東町バス停の真ん前のマンションの一階にある。金魚鉢のようなまるいガラス窓が目印だ。海から近い日本の版元ベスト5に入るか、入らないか。調べたことがないから分からないが、入れば素直に嬉しい。だからといって売上げは変わらない。

 海に近いから、港の人と名のっているのではない。詩人北村太郎さんの詩集『港の人』に由来する。北村さんとは生前親しくお付き合いをさせていただいたご縁から、勝手に社名に使わせていただいた。単純に、かっこいいからだった。だが、『港の人』は生と死を直視した北村さんの独自の思想をはらみ、潔く港の風が吹きさらしている詩集だ。そこが港の人の立ち位置でありつづけるように学び、努めていきたい。還りつく港だ。

 昨年の3・11以降、港の人は書物に帯を付けることを止めた。帯とは何か、書物にとって帯は必要なものか、本来の書物の姿とは何か。本の内容を知らせるには便利だとか、キャッチコピーにひかれて本を買うとか、さまざまな意見がある。長くなるから詳細は省くが、そのことを社員ふたりで話し合い、不要という結論を出した。3・11を契機とした、小さな版元のささやかな決意である。帯を捨てよ、書物の姿とは何か、そのことを考える。

 この号は、港の人がご縁あって上梓させていただいた書物の一部を紹介したい。

 書物一冊一冊が生きる希望を生むかけがえのないものである。そういう匂いがし、手触りが感じられる書物をつくり出していけるよう、さあ頑張ってゆこう。