港のひと 005 抄

 

ひとが歩く速度があるように

ひとが歩く速度があるように書物をつくる速度がある。

年間十点前後の書物をつくることが、ここ(港の人)の速度になる。それが早いか遅いかを計るのは詮ないことだし、ゆるやかに、ぎりぎりに、活動できていることはまあ確かだ。それがここ(港の人)の生きることの速度だと言ってしまえば、そうだと言う(ゆるやかも、ぎりぎりも、ここの速度のひびく音と感じてもらいたい)。

昨年春、港の人は創立十周年を迎えることができた。その年に、敬愛する北村太郎さんの書物を上梓することができたことはたいへん有り難く、嬉しいことだった。わたしにとっては大事件であり、それこそ奇蹟のような出来事だった。

この書物にかぎらず、書物が誕生することは少なからず当事者たちにとっては奇蹟のような出来事に違いない。この春、京都女子大学図書館吉澤文庫に所蔵されていた『節用集』を影印で刊行した。この『節用集』は室町末期の写本とされるが、時間をおおきくこえて二〇〇八年に、もう一度出版という形で日の目を見ることができた。筆者は塵になって宇宙に沈んでいるが、いくつかの戦乱の時、時代をへて写本は残った。書物を上梓することは、そういう命題がある。夢がある。

あらゆる文化の根っこである詩を大切にし、生きる希望の糧となる出版を耕していきたい。