港のひと 004 抄

 

目録〈序〉

 ここに掲げている書物が港の人創立以来、この十年に上梓した書物のほとんどである。ほとんどというのは、ほかに数点非売品の書物もつくらさせていただいているからである。これらのどの書物をとってもみな、港の人が出会えた人の書物であり、かけがえのない愛する書物である。

 港の人の書物の種類は大きくふたつに分けられる。ひとつは日本語、社会福祉、児童文化、教育などの学術図書、もう一方は詩集やエッセイ集、評伝などの、おもに本屋さんに売ってもらう人文書。本の告知方法と流通の問題からこのようにふたつに分けるのであって、つまり学術図書はもっぱらその図書の学際分野の研究者にめがけてのみ告知して販売する。読者を限定した専門図書は、部数も極端に限るから定価は高額になってしまう。しかし港の人ならではのユニークで有用な文献を研究者に提供できたのではないか。二〇〇六年春、日本語学会の機関誌『日本語の研究』に一頁広告を掲載できたときにはほんとうに感慨深かった。

 一方の本屋さんで展開する人文書は物流の力のようなものが大きく作用し、ちいさな版元では舵が取れにくい面がある。発行部数が一五〇〇、二〇〇〇にしろ、書店営業をしていくわけだけど、物理的にも壁があり、きめ細かな行動ができずなかなか難しい。こちらも数々の心に残る書物、話題の本を上梓したと考えているが、企画をコンスタントに生み出せず、継続的に書物を刊行できなかったことが歩む速度を落としたことは否めない。

 創立した年の一九九七年は二点しか書物を上梓していない。翌年も八点。それからも似たりよったりの点数で、当時三人いた社員がよく喰えたものとあきれ、忸怩たるものを感じる。それでも試行錯誤しながらもこうしてこの十年出版活動に従事してこられた。お名前はひとりひとり書き留められないがあつくご支援くださったみなさまに、多謝。学術図書、人文書の顔触れをみれば、上出来ですよと大きく胸を張りたい。ありがたいことだ。

 学術図書も、人文書も、書物は売れないといわれる。「そうですよ」と言うことはできないし、いろいろ試みたりしたけれども、ここでできることは限られてしまう。反省をふまえて言えば、積極的な意味合いから、どこまで辛抱強く堪えられるか、このことに尽きる。だが、怯まず、あれもこれも、現実をこじあけて風通しよく活路を見出していきたい。

 そして、ここに生きることへの、書物の力。ここに生きることへの、書物の愛。このふたつのことを創造していくことこそ、ちいさな版元の忘れてはならぬ大切なポジションかもしれない。このことだけは堅持していきたい、と思って、港の人は行く。