小学読本字引集成 全28巻別巻2

飛田良文  編著

◎田中義廉編輯『小学読本』〔初版・再版・改正〕を収録

◎現在判明している、上記書を本文とする『小学読本字引』97点を編年順・出版地別に収録。

◎原版を拡大収録し、読みやすいように工夫。判型=A5判

◎別巻1(別売)には、飛田良文の詳細な解説を掲載し、近代日本語での『小学読本字引』の意義・重要さを究明する。

◎『小学読本字引』の見出語は本文掲出順のため語彙調査が困難だったが、今回、現代かな50音順の見出語総索引を作成。さらに大槻文彦著『言海』の見出語と比較対照できるよう工夫。

◎別巻2(別売)には、『小学読本』のもとになった、M.  Willson著『Harper’s Series : School & Family Readers』を収録。

 

■刊行のことば

明治4年文部省が設置され、明治5年には「学制」が公布された。明治6年からは小学校が開校され、その小学校用の教科書として『単語篇』『連語篇』『会話篇』『小学読本』が編集され出版された。その一つ『小学読本』はリーダーとして小学校教育に大きな影響を与えた。

最初に出版されたのが田中義廉編集の『小学読本』で、次が榊原芳野編集の『小学読本』であった。『小学読本字引』は、これら『小学読本』の学習参考書として誕生したもので、その収録語の読み方と語釈を示したものである。

当時の出版事情は今日と異なり、『小学読本』は文部省が原本をつくり、それを元に全国各地の版元があらたに『小学読本』を翻刻して使用した。『小学読本字引』は、それら版元の要請によって、各地の編者が独自に内容を研究して、読み方と語釈とを施したもので、その一冊一冊は、編者の言語環境、教養、語感などを反映し、当時の日本語事情が濃厚ににじみ出ており、オリジナリテイにあふれている。

たとえば、穀物には「クフモノヽカシラ」、小学校には「ダレデモ セネバナラヌ ガクモンヲ ヲシヘルトコロ」のように個性のある語釈がある。また、大阪府平民、名和喜七編の『小学読本字引(改正)』(明治12年)には、「狼」を「ヒトヲカブルヤマイヌ」と語釈を記しているが、この「カブル」はひろく近畿・中国地方に使用される方言である。宮城県士族、木村一是編の『改正小学読本字書』(明治13年)には、「蝸牛」に宮城県地方の方言である「タマクラ」と記している。『小学読本字引』が方言研究の視座からも利用できる顕著な例である。

田中義廉の『小学読本』はM. Willson著『Harper’s Series : School & Family Readers』(1860年)をもとにしているが、第三課の「彼女ハ、鳥を捕へて、籠に、入れ置けり」はLesson XII.の「She has a bird, and she has put it in a cage.」の部分にあたり、『小学読本字引』の「彼女」にはカノジョ、またはカノオンナと振り仮名の付いているものがある。明治9年刊の『画引小学読本』(速水岩吉編)は、「彼女」とある最初の確実な例である。

明治19年に成稿し、明治22年から出版された大槻文彦の『言海』は、日本最初の近代的国語辞典といわれるが、『小学読本字引』は、その前史を語る国語辞書として位置付けることができる。『言海』をハレの国語辞書とすれば、『小学読本字引』はケの国語辞書といえよう。

今回、最初の『小学読本』である田中義廉編集の初版・再版・改正版と、それを本文とする全国各地の『小学読本字引』を年代別・地域別に分類・編集し、収録語総索引を作成して刊行することになった。

本集成が、近代の小学校用教育語彙の構造を明らかにする基本資料となり、日本近代の辞書・方言・教育など、諸分野の研究の発展に寄与することを心から願うものである。

飛田良文(国際基督教大学大学院教授)

 

 

  • A5判/上製本/糸かがり/函入
  • 第1回3巻(4・5・6巻) 29,000円(本体価格・税別)
  • 第2回3巻(7・8・9巻) 38,000円(本体価格・税別)
  • 第3回3巻(10・11・12巻) 34,000円(本体価格・税別)
  • 第4回3巻(13・14・15巻) 36,000円(本体価格・税別)
  • 第5回3巻(16・17・18巻) 32,000円(本体価格・税別)
  • 第6回3巻(19・20・21巻) 36,000円(本体価格・税別)
  • 第7回3巻(22・23・24巻) 34,000円(本体価格・税別)
  • 2001年7月(第1回)、2002年7月(第2回)、2003年3月(第3回)、2004年1月(第4回)、2005年8月(第5回)、2006年10月(第6回)、2007年10月(第7回)