第2次世界大戦後のルーマニアの過酷な歴史に翻弄されながら、ドナウ川のほとりにて懸命に生き抜く詩人の家族たちの姿、歩みが、柔らかな光に満ちたこの詩集、31篇の詩に刻まれている。ビザンチン信仰を強く持ち、父と母、家族を愛する詩は、言葉の垣根を越えて、私たちの心にしずかに響いてくる。巻末には、訳者、阪本佳郎による詳細な解題とルーマニア紀行記を収録、また、詩人と長く親交しているセルビア在住の詩人、山崎佳代子が愛溢れる文章を寄せている。
国際詩祭「詩の門」を主催する詩人は、山崎佳代子をはじめ、季村敏夫、ぱくきょんみ、藤原安紀子、平田俊子、後藤理絵らを招聘して日本の詩人とも交流を結ぶ。挟み込み栞に各氏のエッセイを収録。
装丁 三橋光太郎
■著者
リュビツァ・ライキッチ(Raichici, Liubița ‒ Рајкић , Ёубица)
ルーマニアのベロブレシュカ(カラシュ=セヴェリン県)出身の詩人。ドナウ川沿いのモルドバ・ノウアで生まれ、レシツァを拠点とした後、現在はティミショアラで活動している。セルビア語とルーマニア語で作品を発表するバイリンガルであり、翻訳家、博士(文献学、ティミショアラ西大学:学位論文「ヴァスコ・ポパ──積分の厳密性」)。ルーマニア作家連盟、セルビア作家連盟、セルビア共和国科学芸術技能イノベーションアカデミー正会員。ルーマニア議会の上院下院においてカラシュ=セヴェリンのセルビア人コミュニティ代表として活動、1989年の革命後初の議会で選出された六人の女性議員のうちの一人であった。
30冊以上の著作をルーマニアとセルビアで出版しており、その詩は、日本語、ハンガリー語、ポーランド語、英語などに翻訳出版されている。ルーマニア語とセルビア語を橋渡す翻訳作品は一千タイトルにのぼり、中でもセルビアの詩人P・P・ニェゴシュの叙事詩『小宇宙の炎』(Luča mikrokozma)やヴァスコ・ポパ全集が重要な作品として挙げられる。2022年には、積年の功績が讃えられ、ムンドゥス・アルティウム文学賞を受賞(アメリカ合衆国テキサス州ダラス)。国際詩祭「詩の門」の発起人兼ディレクターであり、同詩祭に招聘された山崎佳代子をはじめとする日本の詩人とも交流が深い。
■訳者
阪本佳郎(さかもと・よしろう)
京都芸術大学美術学部文芸表現学科専任講師。博士(学術、東京外国語大学:学位論文「生涯としての〈詩〉シュテファン・バチウの〈郷愁〉と「詩の親密圏」」。専門はルーマニア亡命者たちの文学、精神史。北米・ハワイにおける移民、先住民の精神史。著作に『シュテファン・バチウ―ある亡命詩人の生涯と海を越えた歌』(コトニ社、2024)。編者に、MELE-ARCHIPELAGO, Howage to Ştefan Baciu, for the poet’s centennial anniversary (Editera Archipelago, 2019)がある。
■跋文者
山崎佳代子 やまさき・かよこ
詩人・翻訳家。1981年よりベオグラード在住、日本語とセルビア語で創作。1995年より10年間、ベオグラード難民支援団体Zdravo da ste(ずどらぽ・だ・すて)で詩のワークショップを展開。詩集に『みをはやみ』(書肆山田)『海にいったらいい』(思潮社)『黙然をりて』(書肆山田)ほか。エッセイ集に『ベオグラード日誌』(書肆山田、読売文学賞。のち『ベオグラード日誌 増補版』ちくま文庫)『パンと野いちご−−戦火のセルビア、食物の記憶』(勁草書房、紫式部賞)『そこから青い闇がささやき』(ちくま文庫)『ドナウ、小さな水の旅−−ベオグラード発』(左右社)など。翻訳書にダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』(東京創元社)ほか。近刊に、ヴォイスラヴ・カラノヴィッチ詩集『光の記』翻訳がある。
■目次
私はあなたの答え/七年前、私はより若く/放蕩息子のなかでも/人は現世では別れてしまったけれど/父に伴われ仕事を探しに行った/私は詩を書かない/私は時を壁から剝ぎ落とした/父が美しく云った/リューボ、どこにいるの?/独りになるために/旅荷を用意して/夏の日曜日/私が書かなかったすべてのこと/あなたの好きなものを/学びの恩寵は/かつて私は祈った/幼年時代への巡礼/お母さん、私はお胎にいるようにうずくまり/日ごと日記をつけた/この番地の家には生きている/いまや必要なすべてを知っている/私は死とともにある/あなたが紙に入りこむとき/月を仰ぎみたいか/世界を創りし神は/修道士たちの山は輝いて/いつのことだったか、わからない──/詩を心に受けたいの/こうして私は生まれた/私にそそぐ柔らかな光/聖大木曜日にさえ──
訳者あとがき 阪本佳郎
解題/バラガンを訪ねて
跋 リュビツァ・ライキッチ詩集『私にそそぐ柔らかな光』に寄せて 山崎佳代子
■栞
ルーマニアの日々 季村敏夫(詩人)
聖なるハイヒール ぱくきょんみ(詩人)
いくつもの両手が粒子のように 藤原安紀子(詩人)
光と翳り 平田俊子(詩人)
「詩の門」は平和に向かって開いている 後藤理絵(詩人・書家)
- A5判/並製本/本文144頁
- 2600円(本体価格・税別)
- 2026年10月19日刊
- ISBN978-4-89629-480-4

