ベテラン歌人の第5歌集。第1部はコロナ禍の拡大以前、第2部は感染拡大以後の作品で構成。
「この歳月、両親のほかにも偉大なる先生を送り、全体に死を悼む作品が多かった。そんな中で孫の誕生は、明るい光をもたらしてくれた。……再び教室で対面した学生たちのざわめきも、未来の希望のように思われる」(「あとがき」より)。
時代の空気を、人生の哀しみ、喜びを、いちにちの発見を、ていねいに詠んだ感動の名歌集。
装幀 佐野裕哉
■本歌集より
待ちきれずひと月早く生まれ出て小さな手足ぶんぶん振るう
悲しみや悩み苦しみ濾過されて母に滴る透明な水
アクリル板に仕切られ「黙食」指導され我慢比べの初夏の学食
コロナ禍の東京五輪の実況を 死にゆく母とときどき見たり
暮れなずむ弥生の空の真東にオレンジ色の満月香る
■著者
河路由佳(かわじゆか)
1959年生まれ。大学教授。
歌集に『日本語農場』(ながらみ書房)、『百年未来』(角川書店)、『魔法学校』(角川書店)、『夜桜気質』(短歌研究社)、『河路由佳歌集』(砂子屋書房)
■目次
Ⅰ 二〇一五年―二〇一九年
ルネ・マグリット展に寄せて/予言の日/均等法三十年/夕方からの卒業式/秘密裁判/桜色/きっかけは雨/命なにもの/真夏の祭 二〇一六年夏/小石川植物園/文字のはじまり/筋力トレーニング(題詠 スポーツ)/手話の雄弁/指先の通訳/ハスキーな産声/初めての国(題詠 枕詞を使う)/羽化登仙/生き継ぐ命/午後のおしゃべり/ある日/夏の東北 二〇一八/コトリ/十月会 (題詠 十)/昔の着物/ホノルルの夕陽/桜大樹の/健やかに/老師のおしゃべり/パラオの月・奈良の月/秋の薔薇園より/キャンパスの森
Ⅱ 二〇二〇年―二〇二三年
透明な水/ワイキキの虹/夢遠ざかる/コトリ(その2)/感染防止/曼殊沙華/カメラオフ/オンラインツアー/迷子のように/月明かりの母へ/お別れの手紙/黙食/空へ(題詠 空・天体に関する歌)/梅雨明け/茜に染まる/無、だから/金のひとひら (題詠 金)/実家断捨離の記/若葉の道を/制裁下のロシアより/真夏のツアー/復活/一周忌の夏/グズベリ―とウニ丼/伊達巻一つ/三日月/青空に映る黄色い犬/更地になった/オレンジ月夜/自由の行方/荷物(題詠 荷物)/令和のオンライン研究会/一念/月
あとがき
- 四六判変型/フランス装/カバー装/本文232頁
- 2400円(本体価格・税別)
- 2024年5月刊
- ISBN978-4-89629-436-1 C0092