写真評論家として確かな地歩を築いている飯沢耕太郎の、『茸日記』『完璧な小さな恋人』(2023年中原中也賞最終選考作品)に続く第3詩集。
タイトルの通り、3つの詩群で構成される。第1部「冬/ウクライナのきのこ採り」は、ロシアのウクライナ侵攻やコロナ禍が背景にある詩、写真、絵画、音楽などからインスピレーションを得た詩が集められた。第2部「夏/旅の断片」は、東アフリカなど世界を旅した際の詩。第3部の連作「春/アザラシたち」は、2023年春のひと月あまり、アザラシたちの幽霊に取り憑かれたようにして生まれた12編のアザラシの詩から成る。
装丁に使われたアザラシの図像は、1839年スコットランド・エディンバラで刊行された動物図鑑の手彩色銅版画。
装丁 福島よし恵
■本書より
でも書きたいのは そんなことじゃない
アザラシたちの哀しみ
A grief filled with sealsだ
哀しみが
つるつるの丸みを帯びた
アザラシの体のかたちにこごまり
氷の海をただよっていく
──連作「春/アザラシたち」より
■著者
飯沢耕太郎(いいざわこうたろう)
写真評論家、詩人。1954年、宮城県生まれ。1984年、筑波大学大院芸術学研究科博士課程修了。『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書、1996年、サントリー学芸賞受賞)ほか著書多数。詩集に『茸日記』(三月兎社、1996年)、『完璧な小さな恋人』(ふげん社、2022年)。ほか詩とドローイング『アフリカのおくりもの』(福音館書店、2001年)、小説とエッセイ『石都奇譚集』(サウダージ・ブックス、発売=港の人、2010年)、俳句とドローイング『月読み』(三月兎社、2018年)などがある。
■目次
冬/ウクライナのきのこ採り Winter; Mushroom Gathering in Ukraine
ウクライナのきのこ採り 朝/鹿の首 真冬の朝の歌 三秒の永遠 フラ・アンジェリコの受胎告知 ツィゴイネル・ワイゼン どこにもいない男 落下するアリス Behind the Mask
夏/旅の断片 Summer; Fragments of Travels
眼差しの旅 キアカ マリンディ/最後の旅 November Slips Hotel Bakka(馬鹿ホテル) 猫 泣く女 八月 半島/旅/フラグメンツ
春/アザラシたち Spring; Seals
1(ある朝/目を覚ますとすぐに……) 2(誕生日が来て六十九歳になった……) 3(アザラシたちは/にんげんに殺されてきた……) 4(二〇〇二年から翌々年にかけて……) 5(海豹の目には泪……) 6(沼澤地方の/ヨシやガマの生い茂る草地……) 7(萩原朔太郎の『定本青猫』の……) 8(桜の花びらが/風に舞う……) 9(ピンポーン/アザラシ便です……) 10(昼間から呑みすぎたので……) 11(Uo-zuと呼ばれる土地で蜃気楼を見た……) 12(サンティアゴ・デ・コンポステーラの/巡礼路のように……)
あとがき
- A5判変型/上製本/本文158ページ
- 2200円(本体価格・税別)
- 2024年2月刊
- ISBN978-4-89629-432-3 C0092