日々独呟 ひびひとりつぶやく

岸野裕人 著

倉敷市立美術館館長、姫路市立美術館館長などを務めた学芸員が約7年間にわたり書き継いできたエッセイ。日々の暮らしを語る穏やかなことばに宿る成熟した精神、自らの芸術を追い求めた地元の作家たちへ向けるあたたかい眼差し、そして消費社会における美術の難しさ……。いま再発見される名随筆家のたおやかな文章を堪能する一冊。

 

装丁 岸野桃子

 

■本書より
私は「ただの人」という言葉の響きに憧れてきた。「ただの人」とはどんな人間のありさまをいうのだろうか。仕事を辞め、肩書きを外したからといってなれるものではないことは分かっていた。また“自由”や“平等”といった短絡的な言葉と結びつくものではないとも思っている。色々と考えてはみるものの、結論はでてこない。差し当たっては、自分らしく生きることにしてみようと思う。敬愛すべき人やものの価値基準を向上させることを心がけながら。自分のしたいことを実践することが「ただの人」に行き着く第一歩と仮定して。難しいことは自明である。──「ただの人」より

 

■著者
岸野裕人(きしのひろと)
1950年兵庫県姫路生まれ。東京藝術大学卒。1983年姫路市立美術館学芸員に就き、主に近現代美術系の展覧会などを担当。以後、兵庫県立美術館学芸員、倉敷市立美術館館長、姫路市立美術館館長などを歴任。本書が初の著作。2022年死去。

 

■目次
序  井上映粧

 

五十歳の誘惑
画家の生活/コンクリートの額縁/白と黒の道/動物園の象/夏休みの真昼/五十歳の誘惑/携帯電話のある生活/黒/毎日が正月/「考える人」を考える 1/「考える人」を考える 2/無題(尾田龍)

 

午後三時
雪舟をみた/ナツメロ/初心者的通勤電車考/ゴッホとフィンセント・ファン・ゴッホ/痛飲予定/秋の色/星空の下の彫刻/きもの/年賀状/休館中の展覧会/記憶の中の風景/午後三時/月の夜/赤い絵/山間の展覧会/夏二題/さわってみる/秋日和/変形と自画像

 

遠くて近いもの
ギリシャ旅行/夜明け/遠くて近いもの/落書/南の島/釘煮考/麗子像と麗子さん/忘我の絵/読めない「書」/観戦記/コレクター/中央アジアとの出会い/小さな家の月桂樹/「梅」を見たくなった/審査/一枚の版画から/調査の始末/絵を描いていたころ/黄昏の風景/常設展/アトリエ/桜蘭・砂の中の人形/モノクローム/森の中で見た展覧会/仕草の中に/木斛/残されるもの/催促のないツケ/

 

ただの人
ただの人/春を送る/二度目の藤田嗣治展/或る日本画家/初めての夏/橋の上で/残照/私の秋祭り/「ガラス絵」との出合い/表具/山田脩二の〝ヤキ〟/太平洋/畑でアート/ハチミツの話/乳母車/手紙/夏の終わりに/絵の調査/へのへのもへじ/「狩野永徳展」雑感/粥/雲の絵/但馬のヴィーナス

 

あとがき  岸野久美子

 

 

  • A5判変型/上製本/本文350頁
  • 3000円(本体価格・税別)
  • 2024年1月刊
  • ISBN978-4-89629-428-6 C0071