生命(いのち)の「わ」から 児童文化の未来へ 子どもの文化ライブラリー よりよく生きる vol.4

村瀬学 著

生命のありよう、そして宇宙のありようの根源に目を凝らすことから語り起こされる児童文化。部分と全体、回転、変身など「わ」の特性に着目しながら、古今東西の物語や遊びに「わ」を見出す。そして、ときに解かれ、繰り返し結び直されるさまざまな「わ」に支えられる人間の営みへと思いを馳せる。大きな射程から児童文化の未来を問い直し、感動を呼んだ最終講義の全文を採録。

また、長年の研究を経て、古典児童文学作品から学校現場やウクライナ戦争までを網羅的に語る「全方位に向かう児童文化へ」を併録する。

いじめ問題、文学、思想など幅広い分野の著作をもつ児童文化研究者の慧眼が光る一冊。

装幀 西田優子

 

■目次

第Ⅰ部 生命の「わ」 児童文化 最終講義

一 「地球の環」と「生命のわ」

1 最も大事な考え方について――「根は花を、花は根を」/2 サツマイモと垂乳根/3絵本『ペツェッティーノ―じぶんをみつけたぶぶんひんのはなし』の意味/4 ノーベル賞受賞になった山中伸弥氏発見の「ips細胞」のこと/5 「地球の環」と「生命のわ」――「たんぱく質」と呼ばれる「わ」へ/6 「たんぱく質」の考え方――「千手観音」の原型/7 「わ」を「結ぶ」――「ひも」と「結び」、「解き」と「手」

二 「変身」する物語へ

1 「いばら姫」から何を考えるといいか/2 「一寸法師」「桃太郎」の「鬼」の造形/3 『ワンピース』の面白さはどこにあるのか/4 『鬼滅の刃』―吸血鬼の物語とは何か

三 生命の「わ」を模したいくつかの遊びへ

1 「あやとり」の不思議について/2 「粘土遊び」について/3 「折り紙」へ/4 「ひも」と「結び」と「包み」/5 偉大な「回転」について――「コマ」回しから/おわりに――たくさんの「わ」に支えられて

第Ⅱ部 全方位に向かう児童文化へ

一 「季節」とは何か

1 「季節」を問う/2 「暦」の創造/3 「規律」の出現

二 春が来た―「存在給付」について

1 「春が来た」/2 「春」には何が来るのか――「存在給付」へ/3 「野の百合、空の鳥を見なさい」/4 「労働」のできないものへ/5 サルトルの「飢えた子どもに文学は何ができるのか」という問い/6 「ベーシックインカム」という考え方だけではなく/7 詩文「ベーシックインカムから存在給付へ」

三 シンデレラの「一二時」――シンデレラとラプンツェル

はじめに/1 シンデレラ/2 ラプンツェル

四 『クマのプーさん』もう一つの読み方

1 『クマのプーさん』の不思議な世界について/2 『クマのプーさん』を読む/3 プー「コーナー」について

五 ラチョフ絵『てぶくろ』の世界から――ウクライナ民話の深層へ

まえがき/1 ラチョフ絵『てぶくろ』の世界/2 「暦」と「絵描き」/3 「舟」とは何か/おわりに

六 手塚治虫とゲーテの『ファウスト』――「メタモルフォーゼ」をめぐって

はじめに/1 「メタモルフォーゼ」とは/2 ゲーテの『ファウスト』の世界の現代性/3 手塚治虫の初期の作品から/4 「ジャングル」とは何か/5 「多能性幹細胞」は小さな「ジャングル」/6 『風の谷のナウシカ』へ/まとめ

七 まど・みちおの「リンゴ」の詩異論――日本と台湾の間で

1 「リンゴ」の詩の作者解説/2 「リンゴ」の詩―日本と台湾の間で/3 年代順に重ねられていった抽象化/4 「リンゴ」の詩を現在の位置で読む――「存在」と「存在承認」の違いへの感覚

八 「ずいずいずっころばし」考――「おとな唄」を感じてはいかんのですか

1 「ずいずいずっころばし」ブラタモリの放映を見ながら/2 「通りゃんせ」など/3 季節体としての身体――「自慰」という言葉への違和観

九 教室に「広場」を―「いじめ対策」の具体的な提案・「二分の一成人式」パスポートについて

はじめに――「私人」と「公人」を結ぶ「わ」について/1 中井久夫の願う「子ども警察」「子ども裁判」/2 「子ども警察」や「子ども裁判所」のあきらめの中から/3 教室に広場を――「子どもの掟」と戦うために/4 「広場」でなにをするのか/5 「広場づくり」で「公の人」になることを学ぶ/6 「二分の一成人式」の有効な活用の仕方について

十 ウクライナと『風の谷のナウシカ』

1 「死」と「未来」を結ぶ「わ」について/2 二〇二二年、「ウクライナ戦争」に何を見ているのか/3 「火の七日間」と「青き衣を着て、金色の野に降り立つ者」/4 アニメ『風立ちぬ』へ/5 「カマドの火」と「ミサイルの火」と

あとがき

 

■著者

村瀬学(むらせ・まなぶ)

1949年京都府生まれ。同志社大学文学部卒。大阪府交野市立心身障害児通園施設(あすなろ園)、同市立機能支援センター(子どもゆうゆう)に勤務。その後、国際日本文化センター研究員、同志社女子大学助教授を経て、同大学教授。児童文化論。2010年『長新太の絵本の不思議な世界−哲学する絵本』(晃洋書房)により第34回日本児童文学学会奨励賞を受賞。現在、同志社女子大学名誉教授。

 

 

  • 四六判/並製/カバー装/本文248頁
  • 2000円(本体価格・税別)
  • 2023年3月刊
  • ISBN978-4-89629-416-3 C3337