新宿書房往来記

村山恒夫 著

50年の歴史を持つ出版社、新宿書房の理念、その活動の源泉が、いま初めて明らかにされる。

 

人望が厚く、名編集者として声価が高い新宿書房代表・村山恒夫は、人との出会いから本を生み出し、辺境に生きる人々の暮らしや地道な活動に注目して、丁寧に活字にしてきた。海女の記録、「声なき声の会」の小林トミのこと、山尾三省の葬儀、如月小春の演劇、原爆の図丸木美術館学芸員との仕事……。故郷の紀伊半島、熊野を舞台として文筆活動を続け「山の作家」として知られる宇江敏勝との40年にわたる刊行事業は、出版界の金字塔とも誇れる価値を持つ。
自らが興味を持ち、尊敬する作家やデザイナーたち、編集者仲間とともに積み重ねてきた仕事を語る村山の文章は、本作りの喜びにあふれている。そしてそれは、編集とは何か、出版とは何か──村山自身が生涯をかけて実践してきた問いかけの答えともなっているように思われる。
出版に携わる人、編集や出版を志す人の必読の書。

 

◎作家・黒川創による書き下ろし「「いま、これをやらないと後悔するから」–––村山恒夫さんのこと」
◎巻末に「新宿書房刊行書籍一覧 1970 – 2020」収録

 

■目次

百人社の三冊から始まる
百人社の三冊/清田義昭、田仲のよ/済州島から続くチャムスの海の道/自前のメディアをもとめて 明治両毛の山鳴りから/ガリ版印刷の歴史・文化を刻む/上野誠版画集『原爆の長崎』のこと
田村義也と、巡る人びと
一四〇〇冊の本を編集装丁した田村義也さん/古地図の地名が動いた/文字、色、人の輪……田村塾/ふたりの編集者/上野英信展余聞:谷川雁の影
杉浦康平山脈
谷村彰彦/踊る編集者 追悼 室野井洋子/岡留安則、『噂の眞相』、杉浦康平/駆けぬけて六十余年、杉浦康平と仲間たち……
編集単行本主義
編集単行本主義/松本昌次さん/最強のクロニクル編集者の戦死/いつしか新しい灯台に向かっていた外回り社長/平野甲賀さんが残した描き文字/大木茂写真集『汽罐車—よみがえる鉄路の記憶 1963-72』のこと
空と声の記憶
山尾三省/如月小春/小林トミさん/見残しのひと/通り過ぎていった小沢信男さん/一冊の本を遺していった……
映画・村山四兄弟
二つの事件と二〇六本目の映画/映画四兄弟/村山新治と佐伯孚治/記録映画『アメリカの家庭生活』と三冊の本/小さな映画会/梅宮辰夫と村山新治/村山新治、三鷹発二〇時二二分
山の作家・宇江敏勝とともに歩む
熊野へ/山の人生 山の文学 作家・宇江敏勝/文芸同人誌『VIKING』と宇江敏勝さん/山の作家が歩いてきた道/百年の物語・森の奥からかすかに響く音—そして、山びこ学校と大逆事件/街を歩く 新村、千歳……
小さな美術館、未来へ
サーカス博覧会が丸木美術館にやって来た/美術館学芸員の仕事/小さな美術館から未来へ、走る/美術館学芸員作業日誌、刊行/『未来へ』が未来へ運ぶ「ことば」

 

「いま、これをやらないと後悔するから」—村山恒夫さんのこと 黒川 創
あとがき 村山恒夫

 

新宿書房刊行書籍一覧 1970-2020

 

■著者

村山恒夫(むらやま・つねお)
新宿書房代表、編集者。1946年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部社会学科卒。70年平凡社に入社、世界大百科事典、百科年鑑の編集に携わる。80年平凡社退社後、百人社を設立。82年新宿書房に統合し、現職。98年から2001年までマイクロソフト社のエンカルタ百科事典日本版編集長を兼任。

 

 

  • 四六判/上製本/カバー装/本文344頁
  • 2800円(本体価格・税別)
  • 2021年12月刊
  • ISBN978-4-89629-401-9