お前は世界でもっとも貧しいものになれ!
「詩はわたしを裏切らない」。このひとつの信念を肚にすえた若い詩人は、混沌とし際限なく腐敗した現代に対峙し、果敢に反抗する。瑞々しく苦い感性から生まれた、虚構の日常を深く穿つ15篇の詩が屹立している。傑作の誕生である。
カバー写真は鷹野隆大〈カスババ〉より。
■著者
北村岳人(きたむら がくと)
1997年東京生まれ。 雑誌Re:X(rexmix2121@gmail.com)を運営。
■収録作品より
「絶望は坂道のあとで」
帰宅途中、坂道を降りくだった先に見える人々が奈落であった
わたしの戦慄きは空へ沈黙した 呆然と立ち尽くす
たぶん断食した聖女の肋骨のように顔面は引き上がっている
どこかで確信があった 群衆は死に向かっている と
そしてゆくゆくはわたしも群衆にならざるを得ないのだ と
平凡な有限性の現実に直面したとき背景へ怒号した
お前は世界でもっとも貧しい者になれ!
都市が停電したかのような怒号であった
人類の底辺に接するかんがえを持つ者だとわたしは
戒律へ刻みこんで生きてきた
わたしより鬱向く人間を知らないからだ
きっとこの怒号は死んだ神の怒号だ
神も同じく群衆の死へ向かう様子に戦慄した
そして否定なく飛び込んでいった
坂道をせっせと降って行ったに違いない
(後略)
■目次
谷底から/傷のアンドロメデー/小川/親愛なる《最果》/抗し得ぬものの影/或る若者/二〇二〇年に立って/絶望は坂道のあとで/小川という地/関係の想像―太古未来/刺青の男への鎮魂歌/刺青の男への鎮魂歌/無題(ある老人の自裁死をうけて)/親しき空洞への憎しみ/現象学
現在から若干の後記
- 四六判/上製本/本文104頁
- 1,800円(本体価格・税別)
- 2020年10月19日
- ISBN978-4-89629-380-7 C0092