中有(そら)の樹(き)

冨田民人 著

ダッダッダッと空を駆け上ってみれば、三百歳のなんじゃもんじゃの樹がたっている。

悠久の時に浮かんでいる父と母、子、家族の存在を慈しみ、詩をかたる。

詩人冨田民人の第一詩集は、日常の世界をひろげてゆたかな生命の樹を実らせている。

詩人の声を道しるべに、あっちの空、こっちの空をのぞいて楽しんでみる。

 

■収録作品より

「昼の月」

 

ぼやけた月が空に浮かんでいる。

白鷺が飛んでいく。

道祖神はそこにある。

桜の木が秋に花を咲かせている、

白い華奢な花びらで。

じっと見ていると、

時代の遠くまで

透きとおっていく。

 

天下泰平の快晴だ。

父親が球を投げ、

子がキャッチして、

緑の広場に

潑剌とした声が響く。

子が球を投げ返し、

父親がキャッチする。

礎の石段に腰を下ろし、

父と子を見守る若い母がいる。

聖なる彼女は視る。

子が投げた球が消え、

すっぽりと割れ目にはいるのを。

(後略)

 

■著者

冨田民人(とみた・たみと)

1957年東京都世田谷区生まれ

詩誌「第二次山脈」同人 さよんの会(休会中)同人

神奈川県高座郡寒川町在住

 

■目次

I 昼の月

昼の月/子/風景/

あらかじめ失われたふるさとへの道順/父/冬のアウトレット・パークは探し人の《場》である/こぐまラーメン店主・続/夢は健忘症である~父の死/悲しき冷蔵庫/ひかりとみず

II 愚寛さん

大都会/快速急行/永池川・入内島橋/対決/なんじゃもんじゃに誘われて/三百歳のあなた/蒼穹の声/愚寛さん

あとがき

 

 

  • A5判/並製本/本文104頁
  • 1,800円(本体価格・税別)
  • 2020年1月刊
  • ISBN978-4-89629-373-9 C0092