児童文学と教育の〈間〉 子どもの文化ライブラリー よりよく生きる vol.1

加藤理 著

児童文学作家・古田足日(ふるた・たるひ 1927~2014)は、『宿題ひきうけ株式会社』『ぼくらは機関車太陽号』『モグラ原っぱのなかまたち』『おしいれのぼうけん』など数々の人気作品を発表した。古田の作品は、教育問題や教育内容など教育をテーマに据えており、教育児童文学といえる。本書は、作品の背景となった当時のいじめや不登校、学力等の教育問題を丁寧に掘り起こし、古田が作品を通して展開した教育論や教育理念を解き明かす。画期的な古田足日論が誕生した。古田作品を読むための格好の手引書である。

 

叢書「子どもの文化ライブラリー よりよく生きる」は、よりよく生きる力を子どもたちとともに創造するために、子どもと文化や子どもの成長発達等をテーマとした研究書を継続的に刊行していく予定です。

 

■本書より

叢書「子どもの文化ライブラリー よりよく生きる」刊行に当たって(抜粋)

人は、今立っている場所から一歩先へ、今ある状態からよりよい状態を希求して、時には枝道にそれて途方に暮れ、時には分かれ道を選び間違えて、悔い、迷い、絶望の谷間から這い上がっては正しい道を探し求めて歩み続けてきた。よりよく生きようとして悟りを開いた人もある。地獄の辛酸を舐め尽くした人もある。平凡な人生を送った人の一生にも、よりよく生きようとする人の根源的な欲求がふつふつと沸き返っていたに違いない。けれども、歴史を顧みると、よりよく生きようとする個の願望が満たされた幸せな時代は稀で、体制順応を求める同調圧力の前にあっては、よりよく生きたいという意思を持つこと自体がタブー視され、「自己責任論」や「身の丈発言」など、いまなお、その後遺症が深い傷跡を残している。

子どもの文化研究所創立五〇周年にあたって、この叢書を、そうした過去の頸木を断ち切り、私たち自身がよりよく生き、子どもたちに「よりよく生きる」力を手渡すために、今なすべきことが何であるかを、読者と対話することを願って刊行する。

片岡輝(一般財団法人 文民教育協会 子どもの文化研究所所長)

 

■著者

加藤理(かとう・おさむ)

1961年仙台市生まれ。文教大学教育学部教授。子どもと教育の歴史、子どもの文化史などを研究。主著に『「児童文化」の誕生と展開』『駄菓子屋・読み物と子どもの近代』『叢書 児童文化の歴史』(全3巻、共編著)ほか多数。

 

■目次

「「子ども文化のライブラリー よりよく生きる」刊行にあたって」片岡輝

 

I 古田足日と〈教育児童文学〉

文学と教育/「教育」を描いた作品/古田足日の足跡と評論/「子どもと文化」の背景/

古田足日創作作品と教育問題/『学校へいく道はまよい道』に描かれた教師/『学校へいく道はまよい道』に描かれた体罰/『学校へいく道はまよい道』が描く「義務教育」/〈教育児童文学〉

II 学校での「学び」へのまなざし 『宿題ひきうけ株式会社』『ぼくらは機関車太陽号』

〈教育児童文学〉三部作/準備の子ども観/「準備の子ども観」からの抑圧と解放/子どもは人的資源?/相対評価、絶対評価/〝認められる〟こと/日本の学校神話/学習態度と芦田惠之助/学校での学び/「ほんとうの教育」と「深い学び」/「勉強」とは/相互に関連する学びと「総合的な学習の時間」/子ども不在と大人の目線/子どもの力

III 子どもの行動と遊びへのまなざし

『モグラ原っぱのなかまたち』と『ダンプえんちょうやっつけた』そして『おしいれのぼうけん』/子どもを知る/物語が実現する子どもの願い/子どもの本性への理解/時間・仲間・空間/「純粋な時間」と『ダンプえんちょうやっつけた』/押し入れの闇/非日常的空間と秘密/遊びとファンタジー/〈教育児童文学〉のこれから

あとがき―発刊の経緯と創刊の目的

 

 

  • 四六判/並製本/カバー装/本文216頁
  • 2,000円(本体価格・税別)
  • 2019年11月刊
  • ISBN978-4-89629-371-5 C3337