「何者かであろうとしなくていいから、歌は好きだ。この歌の形が決まるまでは、ずっと、果てなく歩けるだろう。夏の夜のにおい。ひとつの歌から次の歌へ、僕は歩いている」(あとがきより)
研ぎすまされた五官を穏やかな音色で包みこみ、ときには微笑みを浮かべながら、はかないものたちに寄り添う心やさしき歌人。現実の切なさに身をひたしながらも、遠く遥かなものへの憧れをたずさえ続ける芯の強さ。年齢や性別をこえたものへと届けとばかりに詠まれた歌は、多くの読者の胸を焦がすだろう。2009年から19年までの10年間に作った歌、全343首をおさめた青春歌集の傑作が生まれる。
■本歌集より
ショッピングモールはきっと箱舟、とささやきあって屋上へ出る
鳥はその喉に触れえず鳴くものを地上の声を飛び越えてゆく
沈黙をやさしく許すひとといて月には水のない海がある
魚でも獣でもない少年の膝に眠っている万華鏡
ひかりのシャワーを浴びてぼくらは静謐と呼べる時間のなかを歩いた
終バスを映画で逃す 雨音をやがて失う世界を歩む
■著者
笠木拓(かさぎ・たく)
1987年新潟生まれ。石川育ち。
2005年から短歌を作り始める。翌年、「京大短歌」に参加。
2013年からユニット「金魚ファー」としても活動。
第58回角川短歌賞佳作。第6回現代短歌社賞次席。
現在、「遠泳」同人。
■目次
I
木馬と水鳥/もう痛くない、まだ帰れない/starry telling/フェイクファー
II
ラウンダバウト/声よ、飛んでいるか/サマータイム/月影の道/論より小鳥/傘には名前/千年一夜
III
For You/うたかた/半月ほど西日/噓と夏の手/pink
IV
正夢/ラネーフスカヤだったわたしへ/客演/むしろ心を薄くして/バスタ新宿/デッドエンドを照らす/何もなかったように/雨音をやがて失う/前日譚
あとがき
- 四六判変型/上製本/本文208頁
- 2,000円(本体価格・税別)
- 2019年9月刊
- ISBN978-4-89629-366-1 C0092
- ※品切れ