フラグメント 奇貨から群夢まで

秋川久紫 著

「獣道しかない山野に割って入るが如き心持ち」(あとがき)で挑んだ第4詩集、冷徹な分析と熱気と激烈さに富む反時代的な23篇の戯曲風断片詩群があらわれる。経済用語や会計用語を詩に引き摺りこむ荒業をやってのけ、経済に翻弄される世相に対峙する。そして個の愛と自由をささやく。

 

■本詩集より

「ヨハン・セバスチャン・バッハと超獣群夢を巡るエスキス」

(前略)

【一角獣】

孤絶ヲ矢ニ換エ、金色ノ社ニ棲ミテ怪シゲナル修行ニ没入セシ者ヲ偏ニ糺セ。

 

《其の伍―BWV一〇五〇・ブランデンブルク協奏曲第五番ニ長調》

全ての目論見が善意に満ち溢れていて、あらゆる挫折の兆しは痛みの中枢に届く前に手当てされる。直線と曲線が程良くブレンドされて支柱を構成し、偉容を恥じらう建築物は着実にその高さを増し続ける。揺るぎのない父性が苦悩の種を柔らかく嚙み砕き、笑顔を見せつつこれを平らかにしていく。パン・ド・ミーのトーストとフォションを淹れたティーカップが並ぶ食卓。輝かしい朝。

 

■著者

秋川久紫(あきかわ・きゅうし)

1961年 東京都生まれ

2006年 第一詩集『花泥棒は象に乗り』(ミッドナイト・プレス、第18回富田砕花賞)

2009年 第二詩集『麗人と莫連』(芸術新聞社)

2012年 第三詩集『戦禍舞踏論』(土曜美術社出版販売)

2014年 散文集『光と闇の祝祭』(私家版・江戸詩士紫屋)

2016年 企画詩書『昭和歌謡選集』(ブイツーソリューション)

2017年 フリーペーパー『荒木時彦×網野杏子×秋川久紫』(江戸詩士紫屋)

 

■目次

身代の移転もしくは奇貨の認定を巡るエスキス/凋落と情動を巡るエスキス/火焔と屹立を巡るエスキス/デジタルフォレンジクスと花鳥風月を巡るエスキス/ベリーソーダと歌舞音曲を巡るエスキス/デッド・エクイティ・レシオと緑黄色野菜を巡るエスキス/バーチャル・コーポレーションと止血鉗子を巡るエスキス/フリンジ・ベネフィットと天地無用を巡るエスキス/クロックマダムと近現代建築を巡るエスキス/プライマリーバランスと糖質制限を巡るエスキス/コーポレートスレイヴと徳川家霊廟を巡るエスキス/塚本千春とシングルハーブを巡るエスキス/起業家とサーヴェイランスツールを巡るエスキス/杉山寧とデバイスマネ人事考課とトレーシングペーパーを巡るエスキス/債務確定主義とナレッジ・マネジメントを巡るエスキス/デファクトスタンダードと周章狼狽を巡るエスキス/ガトーショコラと伝家の宝刀を巡るエスキス/ハニーチュロスと奇観墨画を巡るエスキス/刺客試剣と賜金圭角を巡るエスキス/草間彌生と篠田桃紅を巡るエスキス/俵屋宗達と触媒作用を巡るエスキス/ヨハン・セバスチャン・バッハと超獣群夢を巡るエスキス

 

あとがき

 

 

  • A5判変型/スイス装/本文150頁/函入
  • 2,400円(本体価格・税別)
  • 2019年5月刊
  • ISBN978-4-89629-359-3 C0092