2018年鮎川信夫賞の気鋭詩人、暁方ミセイの最新詩集。少女の頃から宮沢賢治の世界に魅了されてきた詩人暁方ミセイが、小岩井農場や花巻などをうろうろ歩きながら、賢治の幸せについて考えた、ミセイの「心象風景」。
トン、トン、と音がする/さみしくないか、/さみしいよ/さみしいならなぜ行く/わたしはさみしさを使いきらねばならないからです(「七月三十日」より)
なぜ、さみしさを使いきらねばならないのか。紫雲天気、この世に降りそそぐ新鮮に出会い、心が軽くなったり透きとおったりして、幸せを呼ぶ吉兆詩集。
第29回宮沢賢治賞奨励賞受賞
■収録作品より
「花巻駅」
今でた向かいホームの電車は濃い紫ライン
その奥の空は淡い金色とくらくなる雲
青い駐輪外灯の下は別の世界だ
まだ学校帰りの話題が続く男の子たちを
あの一帯は知らない間に飲み込んでいる
向かいのホームのベンチにはもう秋が居座り
それはくらがりの水気と
白い電燈の身を切るような発光でわかるのだけど
ひるま風がやわらかで
人肌のやさしいなつかしさを持っていた
あれが夕方になって
冷えてさみしく錆びついている
意識の外でも伴奏は流れ
待合室にも秋は生じていた
一度ここを出てしまえば
みんな白と淡いうすまった金色の水中
泳いだ記憶だけが
あとまでずっとついてくる
■著者
暁方ミセイ(あけがた・ミセイ)
1988年神奈川県横浜市生まれ。2011年に第1詩集『ウイルスちゃん』で第17回中原中也賞、2018年に第3詩集『魔法の丘』で第9回鮎川信夫賞を受賞。そのほかの詩集に『ブルーサンダー』、電子版詩集『宇宙船とベイビー』など。
■目次
虹と吉祥/ばらと小鳥/夕立/七月三十日/朝雲/奥の間/東北の昼ま/留守/忍/小岩井農場 二〇一六年 パート一、パート二、パート三、パート四、パート五、パート六、パート七、パート八、パート九/東北本線(下り)/花巻農高/参拝法/花巻駅/風景の明滅
- 四六判変型/上製本/カバー装/本文104頁
- 1,600円(本体価格・税別)
- 2018年10月刊
- ISBN978-4-89629-352-4 C0092