陸離たる空

木ノ下葉子 著

陸離たる空をみて、心の鉄塔をのぼりつめようとする話題の青春歌集。生きることの痛みや哀しみ、孤独に対峙しながら、ひたむきに歌に向き合う情熱が奥底にある。

2017年水甕賞を受賞した新鋭歌人の第1歌集。

第25回日本歌人クラブ新人賞受賞。

 

■跋文より

助川幸逸郎(岐阜女子大学教授・東海大学非常勤講師(日本文学研究))

非凡な詩才は、若葉の上に慄く陽光を思わせる、鋭利で、鮮烈で、儚い歌となって結実した。

 

■収録作品より

もう二度と逢へない人の貌をして或る日するりと降りてくる蜘蛛

 

われが我に飽きくる心地ややありて夕べのバスに小銭を探る

 

ブラインドといふ刃物の捌きたる月の光を一枚踏みつ

 

イカロスの翼の形に張り詰めて永久に落ちない吊り橋はなし

 

青空が最も近く我にあり父親のごとき夏の面積

 

母親に殺されたしと願はくは神のくしやみの燃ゆる音する

 

熟寝する母を初めて見し夜明け漕ぎ出ださむと乗りし方舟

 

■著者紹介

木ノ下葉子(きのした・ようこ)

1980年7月11日山形県寒河江市生まれ。

静岡県清水市(現在、静岡市清水区)三保に育つ。

2010年12月、「水甕」入社

2013年、水甕新人賞受賞

2017年、水甕賞受賞

2018年、「水甕」同人

 

■目次

I 空が鳴る

風はいつも/昼の月/汗ばむたましひ/母の黒髪/梅雨の坂道/うたはぬうたよ/汽水となりて/スイッチ/境界/さよなら以外の/電池/藁半紙の海/少年

 

II 空が揺る

措置入院/桃太郎/切片/脳波/砂の城/此の世の道/鳩サブレー/光のくるしみ/満月/夏への手紙/縄の記憶/聖家族/秋の日捲り/風はこぶ/静かなひと/闇の温度

 

III 空を乱す

母の目当て/陸離たる空/血のやうな/鉄塔/紫陽花/クタの浜辺/鍵が鳴る/指の先から/年若き人/書き間違へて/こゑを貪る

 

IV 空に住む

出口となさむ/とねりこ/さざなみ/芳一の耳/方舟/夏の面積/不眠症/文字盤/桜の下を/銀のくさはら

 

あとがき

 

 

  • 四六判変形/フランス装/カバー装/本文222頁
  • 1,800円(本体価格・税別)
  • 2018年7月刊
  • ISBN978-4-89629-350-0 C0092