祈り 金時鐘詩選集

金時鐘 著
丁海玉 編

◎「在日を生きる」詩人・金時鐘の半世紀にわたる、肉声がつらなり、響きわたる詩選集。

◎本詩選集は、第1詩集『地平線』、『新潟』、『猪飼野詩集』、高見順賞の『失くした季節』ほかの詩集、さらに最近の詩(単行本未収録)などから、代表作38編を厳選。生涯の詩の軌跡を辿ることができ、金時鐘の詩の世界を知る格好の入門書。

◎巻末の解説は、金時鐘の詩友で編者の丁海玉が、丁寧に詩人の遍歴、詩が問いかけるものを語る。

◎金時鐘夫人、カン・スニの姪で画家パク・ヨニの絵がカバーを飾り、本文には、カン・スニが描いた詩人のスケッチがおさまり、個性的な詩集の装いを見せている。

 

■収録作品より

「自序」

 

自分だけの 朝を

おまえは 欲してはならない。

照るところがあれば くもるところがあるものだ。

崩れ去らぬ 地球の廻転をこそ

おまえは 信じていればいい。

陽は おまえの 足下から昇つている。

それが 大きな 弧を描いて

その うらはらの おまえの足下から没してゆくのだ。

行きつけないところに 地平があるのではない。

おまえの立つている その地点が地平だ。

まさに 地平だ。

遠く 影をのばして

傾いた夕日には サヨナラをいわねばならない。

 

ま新らしい 夜が待つている。

 

■著者

金時鐘(キム・シジョン)

1929年日本統治下の朝鮮・釜山生まれ。詩人。1949年20歳の時、済州島四・三事件に関わり日本へ。

26歳から日本語で詩作をはじめる。詩集や随筆、評論、翻訳など著作は数多くある。『在日のはざまで』で毎日出版文化賞(1986)、『原野の詩』で小熊秀雄特別賞(1992)、『失くした季節』(藤原書店)で高見順賞(2011)、『朝鮮と日本に生きる』(岩波書店)で大佛次郎賞(2015)をそれぞれ受賞。現在、『金時鐘コレクション』(全12巻、藤原書店)刊行中。

 

■編者

丁海玉(チョン・ヘオク)

1960年神奈川県川崎市生まれ。詩人。1984年ソウル大学校人文大学国史学科卒業。1992年大阪高等裁判所通訳人候補者名簿に登録。韓国語の法廷通訳を務め、現在に至る。著書に『こくごのきまり』(土曜美術社出版販売、2010)、『法廷通訳人 裁判所で日本語と韓国語のあいだを行き来する』(港の人、2015)など。詩誌『space』同人。

 

■目次

自序

 

わが性わが命

しゃりっこ/うたまたひとつ/除草/知識/飢えた日の記/南京虫/わが性わが命

 

新潟

III 緯度が見える(抄)

 

見えない町

夢みたいなこと/真昼/年の瀬/たしかにそういう目がある/種族検定/あなたはもうわたしを差配できない/見えない町/寒ぼら/日日の深みで(3)

 

影にかげる/褪せる時のなか/骨/噤む言葉─朴寛鉉に/冥福を祈るな/日の底で/

夏/化石の夏/四月よ、遠い日よ。

 

ここより遠く

窓/明日/化身/染み/ここより遠く/祝福/錆びる風景/あじさいの芽/帰郷

 

祈り

それでも言祝がれる年はくるのか/喝く

 

「丁海玉編 詩選集『祈り』に寄せて」金時鐘

収録作品一覧

「生涯をかけて紡いだ詩」丁海玉

 

 

  • 四六判変型/並製本/カバー装/本文224頁
  • 1,800円(本体価格・税別)
  • 2018年3月刊
  • ISBN978-4-89629-345-6 C0092