多感な10代に詩と出会った著者は、詩とくっついたり離れたりしながら人生を歩んでいる。仲間がいるからかもしれないが、著者が今日まで詩を手放さないで来られたことは幸いのひとつに数えられる。詩は人生を見捨てない。だれの心にでもふかく刻まれることだ。『おんなうた』には、著者のふんばりを支えた詩たちがきれいに立っている。はじめてのちいさな詩集、菊池祐子の花が咲く。
■本詩集より
「静(しずか)」
(前略)
III
秋でもない
冬でもない
十月の終わりの
ほそいすきまに
母と弟とわたしは
ぽと、と落とされた
ひと月かけて
父はいなくなったのに
とつぜん
しろい壁の居間が
ガランと かげった
母はかわらず
朝の五時に起き
窓の外を
見ていた
こどものころ
布団のなかで聞いた
連弾のような
訛りの
父と母の会話は
もう ない
(後略)
■著者
菊池祐子(きくち・ゆうこ)
1959年東京生まれ
1982年日本大学芸術学部放送学科卒
1974年頃から詩を書き始める
『パルナス』同人
他 1979年から女優、その後歌手活動を経て現在に至る
■目次
赤い月
YOKOHAMA/常夏/赤い月/二〇四七/黒い夏/静まりかえった夜の台所で/あなたを乗せた列車と/もくれん保育園/ふたつのあこがれ/幸せの鳥
おんなうた
縁切寺二編
白日/縁切寺/おんなうた/業平橋/愛染
エンヘドゥアンナ
寝屋川/山里挽歌/京都 ものがたり/静(しずか)/来しかたゆくすえ/平和温泉/エンヘドゥアンナ
あとがき
- 四六判/並製本/本文88頁
- 1,500円(本体価格・税別)
- 2017年12月刊
- ISBN978-4-89629-341-8 C0092
- ※品切れ