仕事場訪問 四月と十月文庫8

牧野伊三夫 著

◎「仕事場訪問」は美術同人誌『四月と十月』の人気連載。画家牧野伊三夫が強い魅力を感じ関心を抱いているアーティストなどの仕事場を訪問し、その生き方、芸術の心や手法について聞き書きした貴重な記録となっている。

◎本書に登場する人物(敬称略)

木村希八(版画刷り師)、葛西薫(アートディレクター)、山本作兵衛(炭鉱の記録画家)、立花文穂(アーティスト)、橋本兵蔵(月光荘画材店創業者)、鈴木安一郎(アーティスト)、福田尚代(アーティスト)、福間貴士(湯町窯陶芸家)、田口順二(画家)

◎芸術や独自の仕事を模索しながら打ち込もうとする若い世代を応援するメッセージや内容を誇る美術エッセイ集。

 

■本書より

「葛西薫のデザインと芸術」

「葛西さんはいつも日記帳のような小さなノートを持ち歩いていますね」

僕は以前、このノートをのぞかせていただいたことがある。そこには、旅先でのスケッチやらデザインのアイデアスケッチなどが描いてあった。あのユナイテッドアローズのロゴ・マークのデッサンや、恩地孝四郎の抽象芸術に関する一文などもあって興味深かった。

「絵でも言葉でも思いついたら書きとめているんだけど、もう何冊目になるかなあ。十年ほど前からはじめたんだけれども。旅先でスケッチがしたいのではなくて、旅先で旅日記を描くような人になりたいと思って。何年も前にただ漠然と描いた形が後にずいぶん役に立ったこともあって、けっこう自分のメモに助けられることがある。

実際にデザインを考えるときは、自己を主張したり、ある偏った思想に固執することなく、いつもニュートラルなものにしたいと心がけている。と言いながら、ヨシ、人生の後半はピンクかな(笑)、なんて思っているとそのとき作るものはピンクになってしまう。矛盾してるんだけど。結局自分に都合のよいことをやってるんだと思う。

だけど今までこの仕事をやってきて思うことは、広告のデザイナーというのは、自分が作りたいものを作るというより、自分以外のコトを見つめるものじゃないかと思う。例えていえば、どんなものでも、みんな何らかの魅力をもっているはずで、それを百としたら三十か四十くらいにしか見えていないかもしれない。それを出来るだけ百に近づけてあげるようとするのが仕事ではないか。百を百五十には出来ないけれどね。広告で作り手の事情があふれているものはあまり見たいと思わない」(後略)

 

■著者紹介

牧野伊三夫(まきの・いさお)

1964年北九州市生まれ。画家。1987年多摩美術大学卒業後、広告制作会社サン・アドに就職。1992年退社後、名曲喫茶でんえん(国分寺)、月光荘画材店(銀座)、HBギャラリー(原宿)等での個展を中心に画家としての活動を始める。1999年、美術同人誌『四月と十月』を創刊。第2回アトリエヌーボーコンペ日比野賞。2012、2013、2017年東京ADC賞。著書に『僕は、太陽をのむ』(港の人)『かぼちゃを塩で煮る』(幻冬舎)。『雲のうえ』(北九州市)、『飛驒』(飛驒産業株式会社)編集委員。東京都在住。

 

■目次

希八先生の版画工房

木村希八の画廊歩き

葛西薫のデザインと芸術

坑夫の描いた絵

立花文穂の本

月光荘画材店のおじさん

鈴木安一郎と富士山

福田尚代が現在の美術表現をはじめるまで

湯町窯の画家 福間貴士

田口順二の美術生活

 

 

  • 四六判変型/並製本/カバー装/本文216頁
  • 1,500円(本体価格・税別)
  • 2017年10月刊
  • ISBN978-4-89629-338-8 C0395