開成所単語集II Baedeker原本・対訳名物図編・英仏単語便覧・対照表II

櫻井豪人 編著

◎2014年に刊行した『開成所単語集I』の続編。

◎『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』(以上『開成所単語集I』収録)の原本であるKarl BaedekerのTraveler’s Manual of Conversationの影印を収録。この影印には『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』と対応する31番から1490番までの番号を付して、読者の便に供するように努めている。

◎『対訳名物図編』(慶応3(1867)年9月序刊)は『英吉利単語篇』系統の英和対訳単語集。書名に「図編」と謳っているが、実際には図は収録されていない。

◎『英仏単語便覧』(桂川甫策編、慶応4(1868)年刊)は、英・仏・和対訳単語集で、『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』『英仏単語篇注解』の英語・フランス語と訳語とを同時に参照できるように掲載している単語集である。

◎「対照表II」は、『英和対訳袖珍辞書』(文久2(1862)年刊)及び『改正増補英和対訳袖珍辞書』(慶応2(1866)年刊)の項目を設けて、これらの単語集の見出し語や訳語が容易に比較できるように工夫している。

◎解説は、前著に引き続き、開成所関連の単語集について成立事情、書肆などについて多数の図版を使用して詳細に述ベている。

 

■本書「はじめに」より

本書は前著『開成所単語集Ⅰ』の続編である。一連の単語集の流れについては前著に記したのでご参照頂きたい。

本書にはまず、『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』の主な底本であるKarl BaedekerのTraveler’s Manual of Conversation in Four Languagesの影印を収録した。(ただし、実際に収録したのは仏語題Manuel de conversation pour le voyageur, en quatre languesを持つ本である。)この本は近年、欧米の出版社からペーパーバックの影印が出版され、インターネットによる通信販売で手軽に入手できるようになったが、いずれも『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』の編纂に使用されたものより後の版次の本である。編著者は『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』の編纂に利用されたと思われる中で底本に用いられた可能性が最も高いと見られる同書の1864年第17版を入手したので、これに『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』と対応する31番から1490番までの番号を添えて影印化することにした。

次に収録した『対訳名物図編』は慶応三(1867)年九月序刊の『英吉利単語篇』系統の英和対訳単語集であるが、内容を一見して分かる通り、「図編」と称しながら図(絵)が入っていない。買山迂夫(市川渡、のちの市川清流)の序文にあるように、全ての語に図を入れることが容易でなく、とりあえず図を入れずに刊行した本である。のち、明治になってから絵を入れた上で『英国単語図解』と改題して出版された。(上巻が明治五年刊、下巻が明治七年刊。)『対訳名物図編』およびその絵入り改題本『英国単語図解』は、『英吉利単語篇』の1490語を全て受け継ぎながらも独自の判断で所々訳語を変更し、場合によっては英語まで変更しているという、注目すべき単語集である。

最後に収録した『英仏単語便覧』は桂川甫策編、慶応四(1868)年刊の英・仏・和対訳単語集である。平たく言えば、『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』『英仏単語篇注解』の英語・フランス語と訳語とを同時に参照できるように掲載している単語集である。ただし、『英仏単語篇注解』の訳語とは異なる訳語を掲載している箇所が若干存在し、興味深い。『対訳名物図編』同様、『英吉利単語篇』等に存する通し番号は付いていないが、その1490語に1語を加えた1491語を収録している。

本書にはさらに、「対照表Ⅱ」と題して、『英和対訳袖珍辞書』(文久二1862年刊)及び『改正増補英和対訳袖珍辞書』(慶応二1866年刊)とこれらの単語集について見出し語や訳語が容易に比較できる表を含めた。前著の「対照表」のうち、『通俗仏蘭西単語篇』『通俗英吉利単語篇』『独逸単語篇和解』『独逸訳附単語篇』の部分を省略し、そこに『英和対訳袖珍辞書』及び『改正増補英和対訳袖珍辞書』で対応する箇所の記述を加えたものである。『英仏単語篇注解』と『改正増補英和対訳袖珍辞書』の関係については拙稿2015・2016で分析しているところであるが、本書ではその全語について対照して示しておいた。『英吉利単語篇増訳』を残した理由は、同書の一部において『改正増補英和対訳袖珍辞書』の訳語を独自に取り入れていると見られる箇所があるためである。(これについては別の機会に改めて指摘する。)

なお、『対訳名物図編』と『英仏単語便覧』の索引は、前著『開成所単語集Ⅰ』に含まれているので、そちらを参照されたい。

(後略)

 

■著者

櫻井豪人(さくらい・たけひと)

1972年 愛知県名古屋市生まれ

1995年 名古屋大学文学部卒業(文学科国語学専攻)

2000年 名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期修了 博士(文学)

2001年 茨城大学人文学部専任講師

2003年 茨城大学人文学部助教授

2007年 茨城大学人文学部准教授(職名変更)

2015年 茨城大学人文学部教授

2017年 茨城大学人文社会科学部教授(学部名変更、現在に至る)

専門分野 日本語学 近代翻訳語研究 洋学資料研究

主要編著書

『類聚紅毛語訳・改正増補蛮語箋・英語箋』Ⅰ解説・対照表・索引編 Ⅱ影印編、港の人、2005年5月

『三語便覧 初版本影印・索引・解説』港の人、2009年3月

『開成所単語集Ⅰ』港の人、2014年5月

主要論文

「『改正増補英和対訳袖珍辞書』と異なる『英仏単語篇注解』の訳語について(1)」『近代語研究』18(武蔵野書院)、2015年2月。

「近世楷書体文献の電子テキスト化における漢字字体処理について―『和蘭字彙』を例に―」『国語と国文学』93-5、2016年5月ほか。

 

■目次

はじめに

凡例

解説

船影

1. Traveller’s Manual of Conversationについて

1. 旅行案内書の出版社Karl Baedeker

1.2. Karl Baedekerとその出版物

1.3. Traveller’s Manual of Conversationの諸版

1.4. Traveller’s Manual of Conversationの序文

1.4.1. 第2版の序文

1.4.2. 第16版の序文

1.4.3. 第17版以降の序文

1.5. 底本がTraveller’s Manual of Conversationであったことの示す意味

2. 『対訳名物図編』について

2.1. 『対訳名物図編』とは

2.2. 編者・市川清流と『対訳名物図編』および『英国単語図解』

2.3. 『対訳名物図編』の「附言」

2.4. 『対訳名物図編』の書誌

2.5. 『英国単語図解』の書誌

2.6. 『対訳名物図編』と『英吉利単語篇』『英仏単語篇注解』との関係

2.7. 『対訳名物図編』における英語表記の変更

2.8. 『対訳名物図編』における訳語の変更

2.9. 冒頭の柳河春三の和歌から考えられること

3. 『対訳名物図編』について

3.1. 『英仏単語便覧』とは

3.2. 編者・桂川甫策と『英仏単語便覧』

3.3. 『英仏単語便覧』の序文と恕介

3.3. 『英仏単語便覧』の序文と恕介

3.4. 恕介の弟・理之助と桂川甫策

3.5. 桂川甫策編『法朗西文典字類』の「例言」から

3.6. 『英仏単語便覧』の書誌

3.7. 『英吉利単語篇』『法朗西単語篇』『英仏単語篇注解』との相違

3.8. 『英仏単語便覧』における原本訂正の扱い

参考文献

開成所単語集 対照表II ―『英和対訳袖珍辞書』及び『改正増補英和対訳袖珍辞書』との対照表―

Traveller’s Manual of Conversation影印

『対訳名物図編』影印

『英仏単語便覧』影印

あとがき

 

 

  • A5判/上製本/函入/本文912頁
  • 18,000円(本体価格・税別)
  • 2017年8月刊
  • ISBN978-4-89629-333-3 C3381