港の人 付単行本未収録詩

北村太郎 著

◎現代詩を代表する詩人・北村太郎は、近年、エッセイ集『光が射してくる』『樹上の猫』、北村太郎の日常風景を淡々と素朴な筆致で描いた『珈琲とエクレアと詩人 スケッチ・北村太郎』4刷、橋口幸子著、小説『荒地の恋』ねじめ正一著などで知られる。ファンからながく待望されていた、読売文学賞受賞の名詩集『港の人』を復刊する!

◎『港の人』には33篇の作品が収められ、詩人独自の死生観から社会を穿ち、根源的な生のあり方を照射する。

◎巻末には、あらたに発見された単行本未収録詩4篇を収録。北村太郎のやさしさに触れる詩篇でたまらなくいい。

◎解説は、詩人・平出隆。『港の人』についての解説のほか、詩人が目撃した北村太郎の生きようを丁寧に描き、北村太郎の魅力を語り尽くす。

◎函の装画は、岡鹿之助作「古港」。端正な装本がひときわ美しく輝いている。

◎港の人創立20周年記念出版

 

■収録作品より

1

暑い朝

たくさんの観念が

鼠いろになって目の前を通りすぎていく

それらは

とっても淋しい響きを残すわけでもないのに

音の幻としては

いつまでもうつ向いていたいくらいの

囁きである

色としては

濃淡がなさすぎて

もうすこしで

影になりそうに思える

 

そうやって

ほとんど観念が消えかかっているのに

〈ほら

〈もっと

〈早くしないと

汗をかきながら促しているんだから

 

観念は

別れを惜しみつつ

この世ならぬ

音と色とを考えないわけにはいかず

ツタの這う窓べに

 

■著者

北村太郎(きたむら・たろう)

詩人。1922年、東京の谷中に生まれる。戦前に同人誌「ル・バル」に参加。47年鮎川信夫、田村隆一らとともに「荒地」を創刊。66年第一詩集『北村太郎詩集』を刊行。以後数多くの詩集を上梓し、繊細な感性をもとに生と死を凝視した独自の詩世界をひらいた。その傍ら翻訳家としても活躍する。92年秋に死去。

おもな著書に、詩集『ピアノ線の夢』『犬の時代』『港の人』(読売文学賞)、エッセイ集『パスカルの大きな眼』『樹上の猫』『光が射してくる』ほか多数。著作集に『北村太郎の仕事』(全3巻)『北村太郎の全詩篇』がある。

 

■目次

港の人 1~33

 

単行本未収録詩

少年の夢/ある男の肖像/ねこ/水たまり

 

解説 平出隆

 

 

  • 四六判/上製本/函入/本文128頁
  • 2,200円(本体価格・税別)
  • 2017年9月刊
  • ISBN978-4-89629-331-9 C0092