詩を愛し、詩を求める、その日常から生まれた静謐な言葉たち。ヨーロッパ芸術への見識と洞察に裏打ちされた詩行は、決して深刻ぶらず、静かに流れていく。時間、精神、風、水……形のないものに言葉を与え、言葉の秘密をさぐる営みは、詩を愛する者すべての共感を呼び起こす。ときには果敢に自然と反自然の境界、生と死の境界へと身を投じ、さまよい歩く著者の姿に、かつて見た詩人の後ろ姿を重ね合わせる読者もいるかもしれない。
詩の正統を受け継ぎながらも、独自の世界を創出するこの詩集は、読者の心に垂直に落ちて、静かな波紋を広げていくだろう。
■本詩集より「甦生」
底の底にて肺魚と出合う
光透ける水の中を
ゆっくり沈んでいたはずが
今は薄闇の岩間に横たわる
傍らには黒々と
身の丈ほどの肺魚が眠り
鱗に熱が照り返る
ぞっとして またここにいる
身動きならず
静かな魚の息に重なる
目覚める とは
別の眼が開くこと
開いた時はもう遅い
底の底にて肺魚と出合う
■著者
岡田隆(おかだ・たかし)
昭和32年(1957)生まれ。ドイツ文学専攻。
詩集「ないものねだり」1998年
詩誌「シュリンプ」編集同人 2002〜2014年
■目次
この日頃/隠されて/四月/鳥たちは/蛙を踏む/虹と蛇/人は/そこなう/贈物/母の舌/地上にて
あらわれ/甦生/水と瞳/繭/あなたへ/弓/愛撫/零/光る花/香り
日の移ろい/針を立てる/蛇/夜ごと/栗の花/のらへ/或る日/また或る日/冬の旅/四季
西方への旅/西方への旅
日付のある風景/二〇〇二・一・一二/立春/清明/友に/知れざる炎/点と点/二〇一三・一・二六/メランコリア/おじさんの肖像 ― 辻征夫さんへ ―/月光馬
あとがき
- A5判変型/上製本/カバー装/本文176頁
- 2,300円(本体価格・税別)
- 2015年3月刊
- ISBN978-4-89629-292-3 C0092