◎2011年3月11日の東日本大震災が子どもと子どもの文化におよぼした影響について総括し、今後も予想される災害時の子どものケアや支援のあり方を考える。
◎「ポスト3・11」の喫緊の課題として、「センス・オブ・ワンダー」「アニマシオン」「いのち」「共生・共死」「うたと語り」「伝承」「自己肯定感」といったコンセプトにもとづき、あらたな児童文化論を提言する。
◎「震災下の子ども」「震災と子どもの文化」「いのちと児童文化」「ポスト3.11の児童文化に向けて」と4つのテーマにわけて、エッセイ、論考を21本収録。
■本書「エピローグ」より
本書は、二つの目的を持って企画された。第一の目的は、2011年3月11日の東日本大震災が子どもや子どもの文化に及ぼした影響について、震災後四年を機に総括しておくことである。震災直後の子どもたちはどのような経験をし、その中で何を思い、それをどのように表現したのかについて、またどのような文化が子どもたちの心身を癒し、慰め、励ましたのかについて振り返っておくことは、今後も予想される災害時の子どものケアや支援のあり方を考える上で、きわめて重要であると思われる。
第二の目的は、本書と同じ港の人から刊行された『叢書 児童文化の歴史』全3巻の中に紹介された20世紀の児童文化論を継承しながらも、新たな視座や問題意識に立った「今日的な児童文化論」を提示することである。その際、「ポスト3・11」というコードを組み込むことによって、その今日性を単なる「新しさ」ではなく、「喫緊の人類史的課題」として意味づけることができるのではないかと考えた。つまり、「3・11」の体験は、単なる自然災害の一つではなく、被災地のみならず日本中、世界中の、子どもたちをはじめあらゆる世代の人びとに、世界観や人生観の大きな転回を迫る出来事として位置づけることが求められており、人類が「ポスト3・11」の世界を生き延びていくためにこれから何を成すべきかについて、次代の担い手である子どもたちが創造・享受・継承してきた文化を通して考える必要があると認識されるのである。
鵜野祐介
■執筆者
加藤理・編者(文教大学教授)
鵜野祐介・編者(立命館大学教授)
片岡輝(東京家政大学名誉教授・詩人)
上遠恵子(レイチェル・カーソン日本協会会長)
黒田恭史(京都教育大学教授)
汐見稔(白梅学園大学学長)
髙橋信行(東日本大震災圏域創生NPOセンター代表)
玉井邦夫(大正大学教授)
千葉幸子(石巻市立井内保育所所長)
波平恵美子(お茶の水女子大学名誉教授)
新田新一郎(プランニング開代表取締役)
増山均(早稲田大学教授)
森健(ジャーナリスト)
門間貞子(こどものいえそらまめ園長)
■目次
プロローグ 加藤理
I 震災下の子ども
「大震災の暗闇と物語の力」加藤理
「「つなみ」を書いた子どもたち」森健
「2011・3・11の記憶を越えて」八木澤弓美子
「被災地の子どもの心を支える」玉井邦夫
「忘れない・忘れられない ―2011年3月11日と、その日からのこと」千葉幸子
「外遊びを奪われた福島の子どもたち」門間貞子
「被災地における精神的ケアについて―放課後子どもクラブの活動を通して」髙橋信行
II 震災と子どもの文化
「東日本大震災と教育・文化―子ども観・教育観・文化観を問い直す」増山均
「希望を紡ぎ、明日を織る―再生に果たす文化の役割」片岡輝
「歌や舞台、芸術、遊びが与える勇気と力」新田新一郎
「関東大震災下の子どもの震災ストレスと児童文化活動」加藤理
「〈魂呼ばい〉の物語 ―津波と異類をめぐる伝承」鵜野祐介
III いのちと児童文化
「昔話が語る〈死と向き合う子どもたち〉」鵜野祐介
「「自己肯定感」を育む生活世界と「場」―承認される「命」と「命」の自覚」加藤理
「教育・文化・保育と命 ―命を食べる」黒田恭史
「ポスト3・11を生きる子どもたちに ―〈いのち〉の意味をどう伝えるか」波平恵美子
IV ポスト三・一一の児童文化に向けて
「レイチェル・カーソンの思想の今日的意義」上遠恵子
「生涯消えることのない〈センス・オブ・ワンダー〉を育むために」汐見稔幸
「松谷みよ子「龍の子太郎」にみる〈ユートピア〉の時代性 ―「ポスト三・一一の児童文学」の視座から」鵜野祐介
「昔話と子守唄のポリフォニー―〈言霊〉と〈唄霊〉の復権をめざして」鵜野祐介
「震災伝承に果たす教育と児童文化の力」加藤理
「エピローグ」鵜野祐介
執筆者紹介
初出一覧
- A5判/並製本/カバー装/本文400頁
- 4,000円(本体価格・税別)
- 2015年3月刊
- ISBN978-4-89629-290-9 C3037