18歳まで過ごした故郷釧路を舞台に、自らの青春の時間と身近な人々の暮らしを、ぬくもりのある言葉で点描する。釧路の「鹿」と、詩人にとって大切な存在であるもうひとつの「鹿」をシンボリックに刻みつつ、等身大の平明な言葉でつづられた詩篇たち。
■「釧路小景 五、故郷」より
夏は毎日深い霧に包まれる釧路だが、この日は珍しく晴れ上がり、水平線まで見渡せた。いくつかの船が白くノスタルジックに遠くに霞みながら浮かんでいる。向こう側には「KUSIRO BEER」と書いた、これまた黄色い建物が見える。出来たての地ビールを飲ませる店だろうか。小樽にも出来ていたな。各地に同じような建物が同時に出来る。
「ほう、釧路とはこんな街か。」紺色のメッシュの帽子を深くかぶり、子ども達にねだられるままに、釧路港を巡る高速遊覧船に乗って、見知らぬ海の風に吹かれる。
■著者紹介
稲葉江利加(いなば・えりか)
北海道釧路市生まれ。「新しき村」村外会員。本詩集ははじめての詩集。
■目次
i 緑色のファイル
緑色のファイル/冬の公園/風景/鹿/祖父の死
ii 釧路小景
釧路小景 一、海 二、坂道 三、ばばちゃん 四、お年玉 五、故郷/老婆/
ばばちゃん(連作)/ウメェもの/帰りたい/籠の鳥/最期
iii Dear Deer !
プロローグ/鹿はいた/何の相談?/母の話/父の対応/目撃/鹿内/弟の怒り/鹿を探せ/鹿が来ると/更科源蔵文学賞授賞式にて/演奏後/うちあげで/鹿を討つ/エピローグ/
あとがき
- 四六判/上製本/カバー装/本文112頁
- 1,600円(本体価格・税別)
- 2014年7月刊
- ISBN978-4-89629-279-4 C0092