オホーツク海の潮、我が故郷の匂いだ。オホーツク海の海鳴り、我が子守唄だ。◎著者が幼少の頃から多感な青年までを過ごした北海道遠軽町丸瀬布、湧別町芭露、樺太の樫保、知床半島の斜里町ウトロ。そこには著者の生きる源といえる、壮大なオホーツク海の海原があった。父母を思い、望郷の海を念ずる。
この望郷の書物は、戦後、樺太ではソ連軍が占領する混乱のさなか、著者が目の当たりに見た、無名の人々の声、姿を活写して、貴重な時代の証言となっている。さらに“陸の孤島”といわれた知床半島で過酷な自然と闘う人々の暮らしを丁寧にぬくもりある筆致で描く。世界遺産の知床の知られざる歴史・風土を語る好著。
昨年の東日本大震災を契機として、人の命の尊さ、儚さを痛切に感じた80歳の著者は、その成長を温かく見守り、応援してくれた人々の恩愛を書き留めたいと一心で著した。次世代に伝えたい心あたたまる自叙伝。
■著者
小野寺英一(おのでら・えいいち)
1931年、北海道紋別郡遠軽町丸瀬布に生まれた著者は、父母の仕事の関係で、幼少年期を同郡湧別町芭露、樺太の樫保と過ごし、敗戦を迎えた。戦後、ソ連が占領する樺太を、命からがらに脱出して北海道に戻る。そして“陸の孤島”といわれた知床半島の斜里町ウトロに一家で移住。著者は郵便局で働き、家族は逞しく開拓に生きる。56年、25歳の時に上京、働きながら夜間大学に学ぶ。早稲田大学卒。実業家として歩み、今日にいたる。
■目次
第一部 郷関記(ふるさとき)
北海の蛍/サロマ湖畔/小野寺家の系譜/海の誕生/樺太 昭和二十年 夏/北へ帰る/国破れて 山河あり/引揚船で故郷へ帰る/ウトロへの先発隊/回想の「ウトロ絨毯」/「駅鈴」と「熊ヨケ笛」── 島巡りの旅/陸の孤島 極限の窮乏生活/ペレケ湾 鰊の群来/引揚者漁民組合/知床 製塩秘話/知床漁業革新の年/ウトロ水力発電所 竣工/さらば、恩愛のウトロ
第二部 追憶記
オホーツクの海/母のスケッチ/男と女の記録 その一 矢来町の女/男と女の記録 その二 年上の女/「姉」──サハリン墓参/ひとり言
第三部 総業前記
大漁波の贈物/苦学生時代/学生結婚/決断の日
自分史を書くにあたって──東日本大震災を機とし 小野寺英一
■書評
「週刊文春」2013年2月14日号
- A5判型/ソフトカバー/本文320頁/写真5点
- 1,500円(本体価格・税別)
- 2012年8月刊
- ISBN978-4-89629-254-1 C0023
- ※品切れ