非漢字圏留学生のための日本語学校の誕生  戦時体制下の国際学友会における日本語教育の展開 国際学友会「日本語教科書」(全七冊) 一九四〇─一九四三

河路由佳 著

◎戦時体制下という苦境のなか、豊かな国際文化交流をめざして日本語教育を推進した国際学友会の全貌を明らかにし、「まぼろしの教科書」といわれる当時の日本語教科書を復刻。21世紀の日本語教育の原点を照射する。

◎「日本語教科書」の復刻、研究書によって、今日の日本語教育の出発点を探る。──今日の日本語教育の出発点というべき、戦時体制下の国際学友会の日本語教育事業を、当時の「日本語教科書」(全7冊)と、長年の綿密な調査と分析をまとめた研究書によって明らかにする。

◎松村明氏、金田一春彦氏など「歴史的な証言」を収録。──当時、国際学友会に務めた松村明氏、金田一春彦氏、実際に学んだタイのサワン・チャレンポン氏など、「歴史的な証言」を研究書に収録。彼らの貴重な声が、国際学友会の実像を立体的に浮き彫りにする。

◎当時の国際交流を活写した「資料 国際学友会の日本語学習者」は貴重なデータ。──「資料 国際学友会の日本語学習者」(研究書)は、現在判明する当時の国際学友会に通学した学生の詳細なデータ。そこに記された国籍(地域)はアメリカ、イギリス、ブラジル、タイ、フィリピン、ビルマ、インドなど国際色豊かに彩られ、国際学友会の日本語教育事業がめざした国際文化交流の姿が活写されている。

◎国際社会での日本語のありかたを考えるための必読文献──21世紀の国際交流、あるいは日本語教育を実り豊かに育てるために、いまこそ日本語教育史を真正面からとらえる必要がある。これまで見過ごされてきた、戦時体制下の国際学友会が努めた先駆的な役割を知り、これからの国際社会での日本語のありかたを考える。この研究書と復刻資料がひろく活用されることを願いたい。

 

■推薦の言葉

「現在の日本語教育の出発点」

戦前の危機的な時代に、国際学友会が日本語教育の整備に向けて真剣な努力を傾けていたことは、長い間忘れられていた。この度、「港の人」より貴重な資料集と優れた研究書が刊行され、その活動の全貌が初めて明らかにされることは、たいへん喜ばしい。疑いもなく、現在の日本語教育の出発点のひとつはここにある。日本語教育だけでなく、近代日本語の歩みに関心をもつあらゆる人に推薦したい。

イ・ヨンスク(一橋大学大学院言語社会研究科教授)

 

「温故知新の基本資料」

さきの戦時下に発足した国際学友会が、留学生への日本語教育に先駆的な活動を行ったことは周知のとおりです。その活動を、保存された資料だけでなく当時の関係者からの聞き書きにもよりながら詳細に記述した本書は、散逸していた教科書類の復刻資料とともに、当時の日本語教育を振り返るための不可欠な基本資料です。日本語教育がさらに展開し深化しつつある現在、積極的な意味での温故知新の書として活用されることを期待します。

杉戸清樹(国立国語研究所長・日本語教育学会長)

 

「日本語教育史の常識を覆す新発見」

1939年6月、文部省は日本初の日本語教育国際会議を開催し、興亜院は日本語教育要綱を作成し、日本語教育の国策化を推し進めていく。要綱は、日本語教科書編纂の要を謳い、教科書編纂経験者、文芸家・書家、経済・科学等の専門家、役人・軍人等を委員に挙げるが、なぜか日本語教育の実践者は入れていない。教科書編纂の国家方針と、教育の現場の関係はどうなっていたのか。

この時期、国際学友会は教科書編纂、日本語教育実践の両面の活動を行っており、本書はその各々を綿密に調査研究している。貴重な労作であり、推薦に値する。

また、一般的に日本語教育は戦前と戦後の間に断絶を認めるが、本書は戦前と戦後の国際学友会教科書を比較し、何カ所にもわたるほぼそのままの引用継承を発見し、断絶論を否定する。これは日本語教育史の常識を覆す新発見であり、史料上反論の余地はない。日本語教育史の基本資料としてぜひ揃えてほしい。

長谷川恒雄(財団法人言語文化研究所研究員・慶應大学名誉教授)

 

■非漢字圏留学生のための日本語学校の誕生 目次

はじめに

 

第1部 戦時体制下の国際学友会における日本語教育事業の展開

第1章 「国際文化事業」としての国際学友会の設立と日本語教育

第2章 草創期の日本語教室(1936年2月─1938年度)

第3章 日本語教育部時代(1939年度─1942年度)

第4章 国際学友会日本語学校(1943年度─1945年)

第5章 国際学友会にとっての敗戦

 

第2部 国際学友会による日本語学習教材(1940─1943)

第1章 国際学友会『日本語教科書 基礎編・巻1─5』(1940─1943)の考察

第2章 国際学友会『重要五百漢字とその熟字』(1941)

 

第3部 戦時体制下の国際学友会関係者に対する聞き取り調査

戦時体制下の国際学友会の日本語教師:中村(旧姓永鳥)愛子/後藤(旧姓大島)優美/松村明/水野清/村田重次

戦時体制下の国際学友会の語彙調査室嘱託(東亜学校教師):金田一春彦

戦時体制下の国際学友会で学んだ学習者:サワン・チャレンポン

 

おわりに──日本語教育にとっての敗戦

 

資料 国際学友会の日本語学習者(1945年まで:国際学友会学籍簿より)

 

■国際学友会「日本語教科書」 内容

[1940ー1943]』収録教科書

『日本語教科書 基礎編』(1940年12月)

『日本語教科書 巻1』(1941年1月)

『日本語教科書 巻2』(同年9月)

『日本語教科書 巻3』(1942年3月)

『日本語教科書 巻4』(同年11月)

『日本語教科書 巻5』(1943年4月)

『重要五百漢字とその熟字』(1941年7月)

※復刻方法は、原版を縮小し、本書のサイズ(B5判)1ページに原版4ページ分を収録。

 

■書評

週刊読書人2006年7月7日号

 

 

  • 非漢字圏留学生のための日本語学校の誕生
  • A5判/上製本/本文534頁/カバー装
  • 本体8,000円(本体価格・税別)
  • 2006年3月刊
  • ISBN4-89629-145-X C3081
  • 国際学友会「日本語教科書」
  • B5判/上製本/本文364頁/カバー装
  • 11,000円(本体価格・税別)
  • 2006年3月刊
  • ISBN4-89629-146-8 C3081