日本語東京アクセントの成立

山口幸洋 著

■刊行の言葉

「江戸言葉は三河から出た」

これは俗説ではなく、江戸で昔、本当に言われて来て、今日の学界の定説にもなっている。

が、不思議なことにアクセントに関してはそうでない。江戸とは無縁に、アクセントは変わりやすいという学説によって、1200年前の京都のアクセントが、法則に従って成立したものだということが日本語アクセントの歴史となっているのである(NHK-CDROM)。

私はそれに疑問を呈して地方からの発信を続けてきた。中央の説は、中央語が常に正しく、地方語はどこか間違っていると言っている。私の方言アクセント調査の旅行・遍歴は50年余、それを自分の耳で確かめる研究と化して、これまで論文を執筆して来た。

言語学でも「変わりにくい」と言われているアクセントが何故変わるか、地方のアクセントを「中央語の訛り」だというのは、中央人のおごりで、訛りは地方人が自分のアクセントを「中央語に同化させた結果」である。アクセントは日本の古代から変化している。それは事実だが、地方には地方古来のアクセントがあり、両者が衝突したことによって変化する。最初は、地方の「元々アクセントのない(縄文時代の?)言語」が、中央「(大陸から来た?)言語」のアクセントを獲得したと考える。そうした変化発生、波及の軌跡は、「全国アクセント地図」にもくっきり現れている。方言及び方言アクセント研究はこのとき真価を発揮するものでなければならない。「三河言葉が江戸語の元」をアクセント研究によって証明する。

変化は、室町時代前後に近畿地方東方の濃尾三河地方、反対側西方の芸備但馬地方で、京都アクセントを獲得する過程(中央から見ればそれが伝播)で起きた。江戸へは関ヶ原戦後その言葉を持った三河徳川の家臣団が移住したことによってそれがもたらされた。それが定着して今の日本語標準アクセントとして成立した。

この論集は、変化をテーマとして、新規の2編「日本語東京アクセントの成立」と、特殊アクセントに光を当てる「凖二型アクセントについて」を中心とする、関連論文を集めた。

 

■目次

まえがき アクセント・フェロモン説

第1部

東京アクセントの成立をめぐって/日本語東京アクセントの成立/保科孝一講義録が伝える江戸語事情/アクセントにおける移行性分布の解釈/東京式諸方言の文節アクセント体系/上方式方言の文節アクセント体系/垂井式諸アクセントの性格/能登のアクセント/アクセント型の意味とその比較/三重県南牟婁郡のアクセント/南近畿アクセント局所方言の成立/三重・奈良・和歌山、三県境地帯のアクセント/四国西南部東京式アクセントの性格

第2部

特殊アクセント諸方言/準二型アクセントについて/静岡県新居・舞阪方言の分離に関わる歴史的事実について/アクセント体系が捨象したもの/フィルター理論について/遠州・奥三河の複合語アクセントについて/「文節末下降」アクセントの考察/下田市須崎のアクセント/岐阜県徳山村戸入方言のアクセント

 

歴史地理とアクセントの分布

著作論文目録

人名・地名索引

 

■書評

中日新聞夕刊2003年10月11日

 

 

  • A5判/上製本/糸かがり/函入/本文485頁
  • 12,000円(本体価格・税別)
  • 2003年9月刊
  • ISBN4-89629-117-4 C3081