空の鳥籠

村松泰子 著

■解説より

「日常への限りない愛着と憎悪」(抜粋)

La・Vieの同人の村松泰子が、書きためていた創作をまとめることになった。(中略)これまでの作品群を今回改めて本腰を入れて読む機会を得たが、その多くは日常性紛々の、生活の在り様が家族というのっぴきならぬ絆を媒体にして等身大で、彼女の身長に見合う視線で描かれている。仕事を持つ女性として、妻として、母親として現在にいたる、短くはない堂々たるキャリアが大いに影響しているのはいなめない現実である。一時一瞬たりとも離れること能わぬ日常は、言いかえるならば生の在り方、生の形でもあろう。創作上の身近かな素材として、家族、家庭、そして彼女が長年たずさわってきた仕事は、何よりも不安なくとりくめる格好のテーマでもある。隅々まで知りつくしているからであり、余裕をもってじっくりと眺められるからである。しかし同時に、日常とは昨日と今日とが、そして多分明日とが、さ程変らぬことも予測出来ることが多い。瞬間瞬間不測の事態が起り得る事と表裏一体として、不変である日常の連続を人は何故か自然、当然の成り行きと思ってしまうのだ。

本吉洋子

 

■著者紹介

村松泰子(むらまつ・やすこ)

秋田県生まれ。雄物川上流で育つ。1985年、関西文学同人となる。1991年、La Vie同人となる。1993年、「H氏と田舎と竹の子と」で第22回日教組文学賞佳作。1995年、「天国への道程」で第24四回日教組文学賞佳作。1998年、「極楽とんぼ」で第26回日教組文学賞受賞。

 

■目次

赤い傘

一日の休暇

日のあたる時

風が止んで

光の氾濫

空の鳥籠

解説「日常への限りない愛着と憎悪」本吉洋子

 

 

  • 四六変型判/上製本/糸かがり/本文164頁
  • 2,000円(本体価格・税別)
  • ISBN4-89629-098-4 C0093
  • 2002年7月刊
  • ※品切れ