樹上の猫

北村太郎 著

戦後現代詩をリードした「荒地」の詩人の散文集。動植物の話、横浜の四季の様子、身辺雑記などをつづった未刊のエッセイ52編、愛娘におくった童話「高いすべり台」、ちょっと不思議な味わいのある掌編小説「暑い午後の寒いイメージ」を収録。朗読嫌いの詩人が「墓地の人」を朗読する(ミニCD付)。カバーの絵は北村太郎自筆。「猫は鳥をみているとき、とても羨ましそうな目つきをする。自分にも羽があれば、と思っているにちがいない」(本書より)。詩人のしなやかなぬくもりが伝わる。

 

■書評

北村太郎氏の散文集・7回忌にあわせ刊行 詩朗読のCD付き

「荒地派」の詩人・北村太郎氏が1992年に亡くなってから、その作品はもちろん、優しく親しみやすい人柄をしのんで、若い詩人たちや編集者らが毎年、「北村太郎の会」を開いているが、7回忌にあたる今年は彼の未完のエッセーやたった一編の小説などを収録した散文集『樹上の猫』(有限会社・港の人)が刊行された。

北村氏は東大仏文科卒。高校時代は田村隆一氏と同窓で、のちに「荒地」のメンバーとして田村氏や鮎川信夫、中桐雅夫氏らとともに作品を発表した。だが、他の荒地派詩人とはやや趣を異にして、「港の人」「墓地の人」「センチメンタル・ジャーニー」など都会の倦怠と憂愁を比較的平明な言葉で述べた作品が、若い詩人たちに大きな影響を与えた。

『樹上の猫』は新聞連載のコラムなど滋味あふれるエッセー52編を中心に、「高いすべり台」と題する童話や、たった一編の掌編小説「暑い午後の寒いイメージ」を収録した。さらに83年10月16日に録音した「墓地の人」の詩の朗読のCDも添付されている。エッセーは田村氏や吉岡実、井上光晴氏らの詩人や小説家についてのもの、彼が愛した港の町・横浜や長く過ごした新聞社での生活、さらに少年時代の浅草六区の面影など、街や人への思いが哀歓を込めて述べられる。貴重なCDとともに戦後を駆け抜けていった詩人の「生きた声」に接することができる。

──毎日新聞1998年11月12日夕刊

 

 

  • 四六判/上製本/糸かがり/カバー装/本文232頁/CD付
  • 2,500円(本体価格・税別)
  • 1998年10月刊
  • ISBN4-89629-016-X C0095
  • ※品切れ