神西清(1903~57)はチェーホフなどロシア文学の翻訳家として声価を定めているが、その作家活動は小説、評論、戯曲などと多岐にわたっている。堀辰雄との親交は旧制一高以来その死までつづき、没後『堀辰雄全集』刊行に尽力した。折口信夫との結びつきも見逃せない。本書はこれまで見過ごされてきた小説家神西清に光をあて、出自、両親のことなどを丹念に掘り起こし、なぜ翻訳家として生計を得るようになったのか、興味深い評伝を成している。
■目次
文人・神西清抄
「雪の宿り」論
「死児変相」論――自己韜晦の文学
折口信夫と神西清
神西清の折口観
日記の中の折口信夫
手紙の中の折口信夫
神西清の蔵書
聞書抄・神西清――徳永朝子氏聞書
神西清研究参考文献目録
あとがき
■書評
一九五七年、五十三歳の短い生涯を閉じた神西清は多才な文芸家である。チェーホフ、ドストエフスキーのロシア文学の翻訳家として盛名をはせたが、小説、評論、戯曲、詩、短歌と多方面にわたり、堀辰雄とのその死まで続く親密な交友関係は有名だ。一九三四年以来鎌倉に住み、鎌倉アカデミアに参加するなど神奈川県との関係も深い。
しかし、彼についての評伝や評論はなぜかこれまでになく、これが最初の本格的な「神西清論」となった。
長年、神西清に傾倒してきた著者(清和女子短大専任講師)らしく、小説家・神西清にスポットを当てた第一部の評伝「文人・神西清抄」にしても、出自から両親のことなど念入りに掘り起こしている。担当編集者・徳永朝子氏からの聞き書きも貴重で、彼の「老人趣味」「人妻趣味」などのほほ笑ましい側面を紹介している。
──神奈川新聞(1998年9月29日)「神奈川の本」
- 四六変型判/上製本/糸かがり/カバー装/本文192頁
- 3,400円(本体価格・税別)
- 1988年9月刊
- ISBN4-89629-015-1 C0095
- ※在庫僅少