チランジア

赤木祐子 著

◎共同体も会話もない乾いた世界で意思を飛ばす空気植物チランジア。個人が危うく孤立している現代社会を漂泊する魂のゆくえ。詩人の切なる声を届ける。

雑誌『ユリイカ』投稿欄の常連として注目された、新進気鋭の女性詩人が世に問うた初めての詩集。 33編収録。

◎「日本社会は復讐されるのでしょうね、電波が伝播して。詩人の予言だね、これは」詩人藤井貞和氏の跋文より。

◎チランジアとは、熱帯に自生するパイナップル科の植物。木の枝、サボテン、岩石、時に電線などに着生し、生育するための土を必要としない。一般にエアプランツと呼ばれる。

 

■ 収録作品より

「乾きを乾かす」

 

時代が乾きを拡散する力が急速に高まっている

底無しの口をもつモンスターの呼気で

蜘蛛が虚空に張ったネットワークで

電波で伝播していく

でんぱででんぱして

でんぱででんぱして

でんぱででんぱして

ドライドライドライと音を立て

搔痒しながら次々に乾き崩れる人々

もともと人でしかなかったうえにもう人ではない

乾きを拡散するために微細な粒子になって散っていく

 

乾きは 私を覆う表皮をかさつかせる

乾きは 私の喉や気管をひりつかせる

乾きは 私の消化排泄をとどこおらせる

乾きは 私の虚しい作業の効率を下げる

 

高温で熱したら根絶できるかもしれない

乾きを燃やしたらきっと

黒い煙を盛大に出した後に

気持ちのいい真空になるだろう

そしてすべてが終息する

恍惚として終息にあこがれた私はきっと

自分のことを私だなんて

二度と名乗れなくなるけれど

しゃべることはもう

言葉にならないけれど

すべて気持ちいい

ひたひたの真実になるだろう

 

■著者

赤木祐子(あかぎ・ゆうこ)

1958年神奈川県生まれ。逗子市在住。地元の文芸グループ「湘南文芸」の代表をつとめ、現代詩の普及に活躍する。本詩集は初めての詩集。

 

■目次

dis-community

 

動物の園/轢かれに行く/非在階段/シュガーポット/最終回/重荷配り/ぬるい雫/海面の後悔/半身やぐら/遠い足 近い石/椅子/人生を棄てるスケジュール/ひきしお/うらみの径/乾きを乾かす/幸福な廃墟

 

dis-communication

 

わたしの肉/散花/火の独楽/わたしたちの生態/骨のように/山椒/隧道/飛翔幻影/恋する物質/死ぬまで一緒に/君のかけらと贋日記

 

communications

 

夜へ/言霊は夜に飛ぶ/スケアクロウ/紙礫/究極の不幸の手紙/風/言の寺

 

 

  • A5判変型/並製本/本文112頁
  • 1,800円(本体価格・税別)
  • 2016年12月刊
  • ISBN978-4-89629-323-4 C0092