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『シンボルスカの引き出し ポーランド文化と文学の話』
本書の詳細

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■ 本文「ヴィスワヴァ・シンボルスカの死を悼む」より
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 二〇一二年二月一日、ポーランドのノーベル賞詩人、ヴィスワヴァ・シンボルスカが亡くなった。突然の訃報だった。八十九歳の高齢。いつこうなっても不思議ではない。しかし、なぜか彼女は、まだまだ亡くならないのではないかと思っていた。
「頭はしっかりしているし、絶対に惚けたりする人ではない」
ポーランドの友人も、そう断言していた。だから、宇野千代の言い草ではないが、「(彼女は)死なないのではないか」と漠然と思い込み、どこか安心していた。まだまだ九十歳を過ぎても生きているに違いないと誤信していた。
 結局、二〇〇九年のポーランド文学世界翻訳者会議でお会いしたのが最後になってしまった。
 私の顔も名前もちゃんと覚えていて、向こうから声を掛けてくださった。いつも翻訳などで食べていけるのかと、ひそかに心配してくださっているようだった。
 昨年、いつもコンスタントには出さないクリスマスカードや民芸風のカレンダー、高校時代からの親友で日展入選画家・若槻三千代さんが描いてくださった絵はがき、さらに、最近ブログで武蔵野日和下駄さんが私の訳詩集を評価してくださったこと、ブックディレクターの幅允孝さんが「震災後に読む本 心に響く……生活者の目線」として取り上げてくださった新聞記事をお送りしたところだった。
 絵はがきには、コバルトブルーや若草色の鮮やかな色調をバックに、私の訳した『シンボルスカ詩集』が、アンティークの椅子の上に読みさしのまま置かれた様子が描かれていた。
 詩人は重症の肺がんに苦しんでいたが、脳動脈瘤という難病とも闘っていて、二月一日に眠るように安らかに息を引き取ったと伝えられる。



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■目次
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Ⅰ シンボルスカ
シンボルスカの詩
こんな人々
懇願
ABC
事件
遠近法
盲人の気配り
アトロポスへのインタビュー
ギリシャの彫像
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シンボルスカへの祈り
ヴィスワヴァ・シンボルスカ
ヴィスワヴァ・シンボルスカの死を悼む
引き出しが好き ヴィスワヴァ・シンボルスカの回顧展
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Ⅱ ポーランド三十景
01 野原とヒナゲシと
02 輝く夏の日は
03 人魚の紋章
04 迷いこんだ花園
05 レフ・ワレサのこと
06 ポーランド人の気質
07 国をあげて復活祭を
08 豪華なオペラ劇場
09 文学同盟の人たち
10 クジャクのように装い
11 いたる所に公園
12 スターリンの贈り物
13 ショパンの生家
14 地下鉄にも複雑な反応が
15 死者の日
16 女性のおしゃれ
17 女性は“四交代”労働?
18 “年金者の家”
19 リラの花咲くころ
20 風邪にきく菩提樹の花
21 ノヴァコスキの世界
22 百五十ほどしかない名前
23 住宅難 私も体験
24 女子労働者の怒り
25 不評の「ワルシャワ労働歌」
26 ご利益のある香り草
27 “黒いマドンナ”
28 強制収容所の体験
29 アウシュヴィッツ行
30 予感はあった
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Ⅲ ポーランド文化と文学の話
もう一つの『キュリー夫人伝』
車椅子で廻ったヘルマン・ヘッセの足跡を辿る旅
秋のガリツィア文学祭
メキシコでの一週間
飛ぶフェスティバル
国境の街 プシェミシルへの旅
二人のウルシュラ
スタニスワフ・レムの目と鈴蘭
新しいポーランド文学の担い手 オルガ・トカルチュク
或るクリムトのモデル
モスクワのギュンター・グラス
ショパンの姉 ルドヴィカのこと
分譲菜園
ノアン・ショパン生誕二百年に寄せて
ヴロツワフのノリ
キュリー夫人の涙
クラクフの本屋さんと薔薇の花
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「あとがき」にかえて
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