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『児童文化の原像と芸術教育』
本書の詳細

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■ 刊行の趣旨 加藤理(東京成徳大学教授)
   遊びをはじめとする子どもの文化は、人類の誕生と共に存在してきたといっても過言ではない。だが、「児童文化」は、誕生してからおよそ90年の時間が経過したに過ぎない。
 一見矛盾するこの言説は、人類の誕生と共に存在してきたはずの子どもが、200年ほど前に「発見」された、という言説を想起することで容易に理解できる。ここで言う発見された子どもとは、生物としての子どもということではなく、保護と教育の対象とみなされ、それまでの子どもに対する観方とは異なる概念を付与されながら近代社会の中で位置づけられるようになった「子ども」のことを意味している。
 「児童文化」という用語とそれに付随する概念も、@児童中心主義教育とデューイ教育論の流行、A文化主義を標榜する新カント派の流行、B美育と芸術教育・児童芸術への着目、C都市中間階級の勃興と教育家族の誕生、Dモダニズムの進展と顧客としての子どもの発見、といった様々な要因が輻輳する中で、読み物や歌をはじめとする子どもの文化にある特別な概念を付与したものとして誕生したものである。
 この叢書では、「児童文化」がどのような意味と概念を付与された言葉だったのか、その誕生時に溯って確認していく。そして、「児童文化」のその後の変遷を追いながら、子どもにとって「児童文化」とはどのような存在だったのか、各時代の「児童文化」を浮き彫りにしていく。さらに、「児童文化」の今日的な意味はどこにあるのか確認していく。
 第1巻は、「児童文化」という用語の誕生前夜の社会状況や「児童文化」という用語の誕生期、そして黎明期の「児童文化」を読み解く上で重要な資料を並べていく。これらの資料群を通して、これまで明らかにされてこなかった誕生期と黎明期の「児童文化」が持っていた本質を明らかにしたい。
 第2巻は、激動の社会の中で「児童文化」も大きく変質することを余儀なくされた昭和初期から、太平洋戦争中、そして戦後の民主主義的な社会の到来の中での「児童文化」に関する資料を掲載する。歴史上未曾有の激動の時代の中で、「児童文化」も大きな影響を受けることになる。そして、その影響は、戦争が終焉し民主主義の時代が到来した後も強く残存することになる。第2巻では、そうした流れを明らかにしながら、「児童文化」が衰退と混乱の渦に巻き込まれていく過程を明らかにしたい。
 第3巻は、60年代以降の「児童文化」論を追いながら、「児童文化」が閉塞状況に陥り、やがてそれを打破すべく新しい「児童文化」論や「子ども文化」論が展開された様子を確認する。また、その中で見失っていたことがどのようなことだったのか明らかにしながら、これからの「児童文化」論を考える手がかりを探っていく。
 この叢書を通して、これまで決して十分とは言えなかった「児童文化」についての整理と理解が進むことを念願している。そして、歴史上経験したことのない急激な社会と文化の変化の中で、ますます混迷の度を増す現代の子どもにとって、「児童文化」が光芒を放ちながら意味のある用語や活動となる契機としてこの叢書が活用されることを願っている。
■目次
刊行の趣旨
この巻の時代と児童文化
 
I 「児童文化」の胎動
   稲生輝雄『女子家庭修身談』敍  
   今井恒郎監修・日本濟美會編『家庭及教育』抄
   巖谷小波『ふところ鏡』抄
   巖谷小波「童話の今昔」抄
   山内秋生「少年文学研究会の思い出」
   「児童博覧会開設の由来」
   小野田萬壽「文化生活について」
   福島県師範学校附属小学校「我が校の児童教養方針」
 
II 誕生期「児童文化」の諸相
 <童心主義と児童芸術>
    鈴木三重吉「赤い鳥」の標榜語」
    北原白秋「児童自由詩に就いて」
    芦谷蘆村「文化生活と児童芸術」
 <芸術教育>
    權田保之助「芸術教育論」
    小原國芳「芸術と教育の本質的関係」
    峰地光重「児童の芸術的生活」
    粟野柳太郎「児童と教育と童謡」
 <「児童文化」の登場>
    峰地光重『文化中心綴方新教授法』抄 
    岡島義雄「はしがき」(『児童文学読本』幼年上巻)
    錫木碧「小学随筆」
 <反動と抑圧>
    小原國芳「学校劇禁止について」
 
III 昭和初期の「児童文化」の諸相
 <童心主義の残映>
    石丸梧平・喜世子『子どもの創作と生活指導』抄
    田川貞二「芸術性の高揚─鈴木三重吉氏の『綴方読本』を読む」
    〈生活綴方とプロレタリア主義〉
    野村芳兵衛「功利主義の再生─文芸教育の一考察(一)〜(二)」
    上田庄三郎「童心主義の崩壊性─綴り方教育に於ける中間意識の清算」  
 <児童文化の大衆化・商業化>
    大日本雄辯會講談社繪本編輯局「絵本創刊の御挨拶」
    柳_浩「少年少女雑誌論─第三回雑誌週間に因んで」
■刊行予定
  第2巻「児童文化と学校外教育の戦中戦後」定価未定/今秋予定
  第3巻「児童文化と子ども文化」定価未定/来春予定

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