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『小学読本字引集成 全28巻別巻2』
本書の詳細

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■刊行のことば ・・・・・飛田良文
 明治4年文部省が設置され、明治5年には「学制」が公布された。明治6年からは小学校が開校され、その小学校用の教科書として『単語篇』『連語篇』『会話篇』『小学読本』が編集され出版された。その一つ『小学読本』はリーダーとして小学校教育に大きな影響を与えた。
 最初に出版されたのが田中義廉編集の『小学読本』で、次が榊原芳野編集の『小学読本』であった。『小学読本字引』は、これら『小学読本』の学習参考書として誕生したもので、その収録語の読み方と語釈を示したものである。
 当時の出版事情は今日と異なり、『小学読本』は文部省が原本をつくり、それを元に全国各地の版元があらたに『小学読本』を翻刻して使用した。『小学読本字引』は、それら版元の要請によって、各地の編者が独自に内容を研究して、読み方と語釈とを施したもので、その一冊一冊は、編者の言語環境、教養、語感などを反映し、当時の日本語事情が濃厚ににじみ出ており、オリジナリテイにあふれている。
 たとえば、穀物には「クフモノヽカシラ」、小学校には「ダレデモ セネバナラヌ ガクモンヲ ヲシヘルトコロ」のように個性のある語釈がある。また、大阪府平民、名和喜七編の『小学読本字引(改正)』(明治12年)には、「狼」を「ヒトヲカブルヤマイヌ」と語釈を記しているが、この「カブル」はひろく近畿・中国地方に使用される方言である。宮城県士族、木村一是編の『改正小学読本字書』(明治13年)には、「蝸牛」に宮城県地方の方言である「タマクラ」と記している。『小学読本字引』が方言研究の視座からも利用できる顕著な例である。
 田中義廉の『小学読本』はM.Willson著『Harper's Series : School & Family Readers』(1860年)をもとにしているが、第三課の「彼女ハ、鳥を捕へて、籠に、入れ置けり」はLesson XII.の「She has a bird, and she has put it in a cage.」の部分にあたり、『小学読本字引』の「彼女」にはカノジョ、またはカノオンナと振り仮名の付いているものがある。明治9年刊の『画引小学読本』(速水岩吉編)は、「彼女」とある最初の確実な例である。
 明治19年に成稿し、明治22年から出版された大槻文彦の『言海』は、日本最初の近代的国語辞典といわれるが、『小学読本字引』は、その前史を語る国語辞書として位置付けることができる。『言海』をハレの国語辞書とすれば、『小学読本字引』はケの国語辞書といえよう。
 今回、最初の『小学読本』である田中義廉編集の初版・再版・改正版と、それを本文とする全国各地の『小学読本字引』を年代別・地域別に分類・編集し、収録語総索引を作成して刊行することになった。
 本集成が、近代の小学校用教育語彙の構造を明らかにする基本資料となり、日本近代の辞書・方言・教育など、諸分野の研究の発展に寄与することを心から願うものである。

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